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読解力をつける(11) 「読む技術」を読む

「読む技術」(塚田泰彦 創元社 2014)を読んだ。
副題は「成熟した読書人を目指して」である。
以前,読解力に関する本を図書館で検索して片っ端から借りてみたが,そのときには検索にかかっていない。タイトルに「読解力」が含まれないからだ。
図書館の,図書館関係の本棚を見ていて見つけた。

 この本の中で使われている用語「読書科学」は初めて見た。そういう学会があることも知らなかった。
もう一つ,「不読者」。文章を読む能力があるのに本を読まない人のこと。

「文章を理解する能力」に問題を抱えているわけでもないのに「本を読まない」ということが,いま深刻な社会問題となっています。これは,知識の有無の問題ではなく,知識を得ようとしたり,活用しようとしたりする意欲の問題であることは明らかです。
 そこで本書では,「読書意欲」のありかを探り,そこから「読む技術」を見直していきます。

ということで,目次は次のようになっている。

Ⅰ章 「読む」とはどういうことか
Ⅱ章 読書をいつ,どこで学んだか
Ⅲ章 自分の読書術をつくる
Ⅳ章 読書生活を生きる
Ⅴ章 ネット時代の読書術

この中で興味があるのはⅠ章だ。
まず,読書を3つのタイプに分ける。
一つは,娯楽のための読書。
二つ目は,真理探究のために行う専門的な読書。
三つ目は,実用目的で知識や情報を収集するための読書。

また,読むことについて次の3つのレベルを設定している。
1.字面の読み
2.文章理解の読み
3.読書の読み

こういった切り口で「読む技術」について検討をしていく。
その中で「不読者」の増加に対して,国語の授業を次のように分析している。

わたしたちは,国語の教科書に載っている物語や小説をどう読んできたのでしょうか。最初に,全体をひと通り自力で読んで,その後,感想を発表させられたのではないでしょうか。そして,何人かの感想発表が終わると,自分自身の感想はひとまず脇に置いて,すぐ,物語や小説の全体をいくつかの段落や場面に分けたのではないでしょうか。
 つまり,私たち一人ひとりがどう読んでいるかは,結局のところはどうでもよかったのではないかと思えてきます。期末テストでは,みんなで確認した「答え」を書かなければいい点はもらえなかったはずです。そのために,最終的にはそのような読み方を受け入れることになります。国語の授業では,この方法で「正確に読む能力」を育ててくれたことになっていますが,果たして,それでみんな満足していたのでしょうか。実は,ここにも不読者が生まれる原因があるのです。

この分析がどのくらい正鵠を射ているかはわからないが,以前読んだ「お母さんといっしょの読解力教室」(二瓶弘行 新潮社 2014年)や「読解力を身につける」(村上慎一 岩波ジュニア新書 2020年3月)を考えると,確かにそうだと思わざるを得ない。

 また,国語の授業での読解を,三読法(通読ー精読ー味読)によって作者が書き表そうとした通りに理解することを目標としているとしている。この三読法は,実はもう一つ「批評」があって四読法だったという。が,この4番目がカットされたという。昭和十年というからずいぶん前のことだ。かくして

本書で課題としている「生きるために役立つ実用的な読書能力」のかなりの部分が,結局学校では身につかないということになります。

と断じている。
 これについて思うのは,今まで読んだ本で出てきた,クリティカルリーディング(批判的な読み方)だろう。学校の国語の授業で,クリティカルリーディングが十分になされないとすれば,どこかでそれを教える必要がありそうだ。ではどこで?
 教科書がちゃんと読み取れない,という現状を考えれば,国語以外の授業で取り入れていくしかないだろう。しかし,国語以外の授業で,「教科書の読み取り」を指導しているとはとても考えられない。そもそもそんな発想はないからだ。それに,「教科書を教えるのではなく教科書で教える」とよく言われているが,教科書はまあ置いといて授業で説明,というスタイルが多いだろう。それは,教科書の記述内容が浅く,教科書だけでは不十分,言い換えると,教師がかなり補充して説明することを前提に教科書が作られている,という日本の教科書の事情もある。

 本書では,その他,外山滋比古の「アルファ読み,ベータ読み」に類することや,読むことと書くことと関係についても書かれている。

「読むこと」について,整理して考えるのによい本といえるだろう。
なお,後半は,目次にある通り,「読書術」や「読書生活」について書かれている。「読解力」とは異なる内容だが,ネット時代における読書生活へのヒントとして一読の意味はあると思う。

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今までの流れは「読解力を追って」にまとめてあります。