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国語教育とは何か(2) 学習指導要領を斬る(1)

 「国語教育 混迷する改革(紅野謙介:ちくま新書)」の内容は大きく分けて2つになる。
 ひとつは,2018年に行われた「大学入学共通テストの導入に向けたプレテスト」についての批判,もう一つは,新学習指導要領についての批判である。
 このうち,新学習指導要領については,「学習指導要領解説」そのものではなく,その解説本を取り上げて批判している。たとえば,「高校国語 新学習指導要領をふまえた授業づくり 理論編 大滝一登(明治図書)」である。「解説の解説本」を使った方が具体的に指摘しやすい,ということでしょう。なにしろ,文科省の「学習指導要領解説 国語編」は288ページもあるうえ,文章が読みにくく,具体例が載っていないからだ。
 とはいえ,その「おおもと」も見てみたい,というわけで,文科省Webページからダウンロードして読みはじめたのだが,「総説」の7ページで,「なんだこりゃ」となった。
 次の文である。

この〔知識及び技能〕に示されている言葉の特徴や使い方などの「知識及び技能」は,個別の事実的な知識や一定の手順のことのみを指しているのではない。国語で理解したり表現したりする様々な場面の中で生きて働く「知識及び技能」として身に付けるために,思考・判断し表現することを通じて育成を図ることが求められるなど,「知識 及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」は,相互に関連し合いながら育成される必要がある。

3回読み直したがわからなかった。
もう少し前から見てみよう。

「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」は,国語で的確に理解し効果的に 表現する上で共に必要となる資質・能力である。したがって,国語で的確に理解し効果的に表現する際には,話すこと・聞くこと,書くこと,読むことの「思考力,判断力,表現力等」のみならず,言葉の特徴や使い方,情報の扱い方,我が国の言語文化に関する「知識及び技能」が必要となる。このため,今回の改訂では,資質・能力の三つの柱に沿った整理に基づき,従前の3領域1事項の内容を踏まえ,国語で的確に理解し効果的に表現するために必要な「知識及び技能」を〔知識及び技能〕として明示した。
 この〔知識及び技能〕に示されている言葉の特徴や使い方などの「知識及び技能」は,個別の事実的な知識や一定の手順のことのみを指しているのではない。国語で理解したり表現したりする様々な場面の中で生きて働く「知識及び技能」として身に付けるために,思考・判断し表現することを通じて育成を図ることが求められるなど,「知識 及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」は,相互に関連し合いながら育成される必要がある。

やはりわからないのではないだろうか。
さらにさかのぼって,やっとわかった。
その前に,次の表があるのだ。

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これでわかっただろうか。
文中の〔知識及び技能〕は,この表(文中では図としている)の中の項目を指すのだ。
したがって,

この〔知識及び技能〕に示されている言葉の特徴や使い方などの「知識及び技能」は,個別の事実的な知識や一定の手順のことのみを指しているのではない。

ではなく,この表を「表1」とでもして,

この表1で〔知識及び技能〕に示されている言葉の特徴や使い方などの事項は,個別の事実的な知識や一定の手順のことのみを指しているのではない。

とすれば分かりやすく意味が通る。
それを上のように書くものだから,〔知識及び技能〕に示されている言葉の特徴や使い方などの「知識及び技能」? となるのだ。
 その前の,

国語で的確に理解し効果的に表現するために必要な「知識及び技能」を〔知識及び技能〕として明示した。

もわかりにくい。「」と〔 〕で違いがわかるだろう,というのではなく, 

国語で的確に理解し効果的に表現するために必要な「知識及び技能」を,表1では〔知識及び技能〕の項目に明示した。

とすればわかりやすい。

さらに,そのあとの

国語で理解したり表現したりする様々な場面の中で生きて働く「知識及び技能」として身に付けるために,思考・判断し表現することを通じて育成を図ることが求められるなど

も意味不明である。
「育成を図る」のは何についてであろうか。
「国語で理解したり表現したりする様々な場面の中で生きて働く」は,そのあとの「知識及び技能」に係っている。「思考・判断し表現することを通じて」は「育成を図る」に係っている。この2つを除くと

「知識及び技能」として身に付けるために,育成を図ることが求められる

となる。では,何を育成するのか。
どうやら次の意図のようだ。

表1に掲げた〔知識及び技能〕の3つの事項により,知識及び技能の育成を図ることが求められる。


このあとには,次の文章が続く。

こうした「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」の育成において大きな原動力となるのが「学びに向かう力,人間性等」である。「学びに向かう力,人間性等」 については,教科及び科目の目標においてまとめて示し,指導事項のまとまりごとに示すことはしていない。教科及び科目の目標において挙げられている態度等を養うことに より,「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」の育成が一層充実することが 期待される。

さて,「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」の育成に寄与するのは,「学びに向かう力,人間性等」であろうか,それとも,「教科及び科目の目標において挙げられている態度等を養うこと」だろうか。
 どうやら,「学びに向かう力,人間性等」 については,「教科及び科目の目標において挙げられている態度等」として示しているのでそれを見てくれ,ということのようだ。

一度読んだだけではさっぱりわからない。
前後を読み直し,「翻訳」しなおさないと意味が通らないのだ。

これが,「国語」の学習指導要領「解説」なのだ。

国語とは,このような「一度読んだだけではわけのわからない」文章を作るための科目なのだろうか。

 学習指導要領解説には,「読解力」ということばは3回しか出てこない。それも,PISAの結果の話。本文には一度も「読解力」ということばが使われていない。「読解力」という概念は国語教育にはないのだろうか。
 この点に留意しながら,学習指導要領をさらに読み進めてみよう。時間がかかるのでこれは次回に。