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ブロッコリーとカリフラワーのお話 : #同じテーマで小説を書こう

「ねえ,あっくん,今夜何食べる?」
「そうだなあ,買い物に行って考えようか」

ふたりはいつものようにいつものスーパーに入った。
緑色の買い物カゴをカートに載せて売り場を回る。
「あ,ほら,きょうはカサゴがいるよ」
「よし,じゃあカサゴを煮るで決まりだね」

つづいて野菜コーナーへ。
「ブロッコリーがあるね」
「カリフラワーもあるよ」

「クミさん,ブロッコリーとカリフラワーの話知ってる?」
「何それ」

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むかし,ある国の農場におおきなブロッコリーの畑がありました。
そこで育つブロッコリーたちは,いかに自分の見栄えが良いかを競っていました。

ぼくの方が緑が濃いぞ。
私の方が顔が丸いでしょ。
オレは背が高いぞ。
わたし,いまはこんなだけど,もう少しすればきれいな黄色い花を咲かせるんだから。
・・・・・・・・・・

ある日,白いブロッコリーが生まれました。
ブロッコリーたちは,みな気持ち悪がって,その子をいじめました。
「や〜い おまえの母さんは大根だろ」
「ちがわい」
「日陰で育った子はいじけてるよね」
「ぼくだって太陽にあたってらい」

白いブロッコリーの子が少し大きくなったころ,「ろまねすこ」という先生がやってきました。
ろまねすこ先生は,同じ顔がいくつもある仏様のような先生です。

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ろまねすこ先生は白いブロッコリーの子を見て言いました。
「先生は,君と同じような色の野菜を見たことがあるよ。たしか,カリフラワー村だったと思う。」

すると,ブロッコリーの男の子が言いました。
「先生,それって,住民も少なくて貧しい村だよね。ぼくらのように,お金持ちがたくさんいる町じゃなくて」
「そうね,でも,野菜としてのおいしさには変わりはないのよ」
「そんなことないよ,あの子,白いだけで味しないもん」

ろまねすこ先生が,味の感じ方は人によって違うのよ,人間のある国ではカリフラワーは高級な料理で使われているのよ,と説明しても,ブロッコリーたちはなかなか納得しません。

「じゃあ,あいつを煮て僕らで食ってみようぜ」

「そんなかわいそうなことをしてはいけませんよ」とろまねすこ先生は言いました。

白いブロッコリーの子は,先生にそっと聞きました。
「ねえ,先生,それじゃあ,ぼくはやっぱりブロッコリーじゃないの」
「そうね,でも先生だってブロッコリーじゃないでしょ。でもね,ほんとうはみんな同じ仲間なんだよ。きみたちも大きくなって,「しじょう」というところに出て行けばきっとわかるようになるよ」

ろまねすこ先生は,みんなに諭すように説明しましたが,子どもたちには難しい話のようでした。

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「あっくん,それ,ほんとの話?」
「なにかの寓話だろうね。」
「じゃ,両方とも買って帰ろ」

ふたりが店を出ると雨が降っていました。

「あ,傘1本しかない」
「いいじゃん,ふたりで入っていけば」
「そうだ,ブロッコリーとカリフラワーにもさしてあげよう」
「そうだね,私たちみたいに,一つの傘の下で仲良くなれるといいね」

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雨はそれほど強くなく,ふたりと,2つの野菜をしっとりと包むようでした。


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杉本しほさんの企画「#同じテーマで小説を書こう」に応募しました。

他にもカリフラワーを書いた人がいますし,ブロッコリーが傘にはなっていませんが,まあいいでしょう。一日遅れの投稿です。

        イラスト:三浦さく tatsukimegu  sauna (イラストAC)