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30日間の革命 #毎日小説64日目

 「あのな、自分が何を言ってるのかわかるか? 頼むから、冗談だと言ってくれ」

高橋は頭に手を当てながら加賀へつぶやいた。

「先生、冗談じゃないですよ。本気です。」

加賀は真剣な目で答えた。

「なら聞くが、世界へ旅に出るってまずどこへ行くつもりなんだ?」

「そうですね。まずは日本各地へ行こうって思っています。東京以外の場所で、どんな暮らしがあるのかとか、どんな文化があるのかを知ってから、世界へ行こうと思ってます」

加賀の元気な返答に、高橋は更に頭を抱えた。

「まてまて。そんなことをして何になるっていうんだよ?」

高橋の質問に、加賀は少し間をおいてから話はじめた。

「先生、俺は進路について真剣に考えた時、自分が何をやりたいのか正直全然わかりませんでした。だから大学へ行こうとも最初は思ったんですが、本気で勉強をしたいとか、研究をしたいって思えなくて。だったら、やりたいことを探すことから始めてみようって考えたんです」

 「……百歩譲って、やりたいことを探すということは理解できる。だが、俺がわからないのは、それが何で世界を旅することなんだ。大学へ行ってやりたいことを探す人だっているぞ?」

 「はい。でも俺は、自分自身で体感したいんです。日本で、世界で何が起こっているのか。そこで暮らす人たちはどういう生活をしているのか。その中で自分の本当にやりたいことを見つけたいって思いました」

高橋は加賀が話せば話すほど、苦い顔になっていった。そして、一口お茶をすすってから話はじめた。

 「あのな、よーく聞けよ。お前が真剣に考えたってことはわかった。だからこそ俺も真剣に言うぞ。世間はそんなに甘くないんだ。いいか? 世界を旅するって言えば聞こえはいいが、とどのつまりそれはフリーターと一緒だ。学校を卒業したあとは、まずアルバイトで金を貯めるんだろ? つまりは高卒のフリーターになるってことだ。よしんば、その後世界を旅できたとする。そして自分のやりたいことも見つかった。でも、いざ就職しようと思っても、自分の入りたい企業は大卒じゃないと採用試験すら受けられない。そんなことだって、ざらにある話だ。確かに、世界を旅して得られるものもたくさんあると思うぞ。でもな、お前の人生はそこで終わりじゃないんだ。その後、結婚もするかもしれないだろ? 結局そのまま就職できなかったら、誰が嫁や子どもを養うんだ? それに、高卒で進学も就職もせず、そのまま30代になってもフリーターを続けているやつなんて、ごまんといるぞ。結局あとから後悔したって遅いんだ。今は、確かに世界が広く見えて、憧れる気持ちもわかる。でもな、今の時期の選択を間違えれば、この後の人生が大変になるのも間違いない事実なんだ。お前だって成績が悪いわけじゃない。生徒会の副会長までやっているし、コミュニケーション能力で言えば、秀でたものを持っていると思う。十分進学できる。大学在学中にだって世界に旅行へ行くことだってできるんだから、悪いことは言わない。進学をもう一度考えてみろよ?」

 高橋は熱弁した。加賀も、高橋がこんなにも熱く話す姿を初めて見て驚いていた。しかし、それでも加賀はひるまなかった。

「先生の言うことも確かだと思います。俺だって就職のことを考えたとき、進学しておいた方が有利になることは理解しています。そうやって普通の道を歩んだ方が楽だとも思います。でも、そのために進学するのって、自分の中で納得が出来ないんです。就職をするために進学するってことに。それに、あとで後悔するって話しがありましたが、逆に今行動しなかったら、それこそ30代になったとき後悔すると思うんです。『あの時世界に行っていたら、今は変わってたかもな』なんて後悔したくないんです」

高橋は、片手を額につけなが、首をふった。

「違うんだよ。お前はまだわかっていない。どれだけ普通の道が幸せなんだってことを」

そして高橋は再び語り始めた。


▼30日間の革命 1日目~63日目
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