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30日間の革命 #革命編 51日目

 加賀は再び図書室へと向かう。下校時間まで残り30分。手崎はまだ友達と一緒にいるだろうか。何て話しかけようか。加賀はそんなことを考えながら足を進めた。そして、図書室の前へと着く。一息深呼吸をしてから図書室のドアを開けた。

 入口から図書室を見渡すと、先ほどまで手崎たちがしゃべっていた場所には誰もいない。もう帰ってしまったのかと思い、図書室の中を見渡す。すると、奥の本棚から何やら音が聞こえた。ゆっくりと近づき覗いてみると、手崎が本棚の整理をしていた。

 手崎の姿を見つけた加賀は反射的に本棚の陰に隠れた。まだ心の整理がついていない。何て話しかけようか。どんな顔をすればいいのか。静寂の図書室に、自分の心音が鳴り響いているような気がした。しかし、ここで躊躇してしまえば、謝ると決意した江藤に顔が立たない。ごくっと唾を飲み込み、意を決して手崎へと話しかける。

 「手崎さん」

 手崎は自分の名前が呼ばれ、周りをキョロキョロ見渡し、そして加賀の姿を見つけた。手崎の表情は”驚き”ではなくどちらかと言うと”悲しみ”に近い表情を浮かべていた。それは、加賀の登場を望んでいないようだった。

 「ひ、久しぶり。ごめんね、急に話しかけて」

 加賀は気まずそうに声をかける。手崎は手に持っていた本を一度棚に戻し、無言のままゆっくりとこちらに近づいてきた。加賀は再び唾を飲み込む。そして、加賀の目の前に来たところで立ち止まり、それまでの表情から一変笑顔になり加賀へ話した。

 「お久しぶりです。今日はどうされたんですか?」

 その笑顔はまるで坂本や仙波を彷彿とさせた。無邪気ではあるものの、何かその奥の感情を探られないための笑顔。加賀は手崎のこんな表情を見たのは初めてだった。

 「う、うん。ちょっと話したいことがあったんだけど、今話しても大丈夫?」

 「……今日はもう帰るところなので、また別の機会がいいんですけど、それでも大丈夫ですか?」

 「もちろん! もうすぐ下校時間だし、また今度話そうよ」

 「ありがとうございます。……ちなみに、その話っていうのは加賀先輩からのお話ですか?」

 「あ、いや、実は俺じゃなくて別の人からの話しなんだ」

 「別の人ですか? それは誰ですか?」

 手崎は最初から加賀以外の人からの話だと分かっているように、どんどんと質問をしてきた。

 「えっと、誰っていうか……」

 加賀は江藤の名前を出すことを少し躊躇した。手崎は無言でじっと加賀のことを見ている。

 「……え、江藤さんだよ」

 「……江藤さん? 江藤さんっていうのは、バレー部の元キャプテンのですか?」

 「うん、そう。手崎さんと直接話したいことがあるんだって」

 江藤の名前が出ると、手崎は少し考える素振りを見せた。そして少しの間をおき、

 「そういうことなら、今からでも大丈夫ですよ。江藤先輩、どこかで待っているんでしょう?」

 と答えた。

 「え、時間は大丈夫? 無理しなくてもいいよ」

 「無理なんかはしませんよ。ちょっと荷物をまとめるので待っててください」

 そう言い、手崎は帰り支度を始めた。そんな手崎を見つめ、加賀は誰と話しているのかわからなくなっていた。それくらい手崎は変わっていた。以前のようにおどおど話すこともない。それどころか、坂本や仙波のようにどこか余裕があり、何を考えているのかわからないような雰囲気に変わっていた。

 「お待たせしました。では行きましょう」

 「う、うん」

 そんな手崎に少し怖さを覚えながら、加賀は江藤の元へと向かった。

▼30日間の革命 第一部
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