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30日間の革命 #毎日小説22日目

 (馬場は確かに頭も良さそうだし、人気もあってリーダーシップもある。でも、どこか裏があるような、そんな感じがするんだよな)

 加賀は悩んでいた。能力だけで言えば、手崎や神原よりも遥かに優れており、馬場を迎え入れることが何よりも得策であるはず。しかし、引っかかるのは、情報を知りすぎていることだった。いくら顔が広いからと言って、1年生が3年生の交友関係まで知っているはずがない。恐らく、馬場自身で情報を集めにきているとしか考えられなかった。ただ、本人もそれは否定しており、証拠もない。でも、そろそろ3人の中から1人に絞ってメンバーを決めなくてはいけないと時間がないというプレッシャーもあった。

 「だめだ、結論がでない。ま、悩んでも仕方ないから、とりあえず図書室でも行くか」

 図書室へ向かうと、いつも通り手崎が一人で将棋を指していた。集中しているようだったので、加賀は静かに手崎の前の席へと座った。

 「あ、先輩。お疲れ様です」

 先に声をかけてきたのは手崎だった。

 「お疲れ様! ごめんね集中しているところ」

 「いえ、大丈夫です」

 「ありがと。良かったら一局お願いしてもいいかな?」

 「もちろんです」

 そうして、加賀と手崎はいつも通り対局を始めた。しばらく経つと、対局中には珍しく、手崎から加賀へ話しかけた。

 「今日は何かあったのですか?」

 「え? 何かって?」

 「いえ、今日の先輩の攻め方は、どこか慎重というか、なんとなく迷っているような感じがしていて」

 加賀は思わず盤面から顔を上げた。

 「そんなことわかるの?」

 「はい。いつもの先輩は後先考えずに、どんどん攻めてくるのですが、今日は慎重に駒を進めています」

 「それって、単に俺の攻め方が上手くなったってことじゃないの?」

 「いえ、上手くはありません。ただ慎重になっているだけなので、迷っているという表現が一番しっくりきます」

 「相変わらずズバッと言うね。だけど、その通りかもね。今、ちょっと悩み事があってね」

 加賀は、思わず手崎に打ち明けた。

 「信頼できる人からさ、仕事を任されてるんだけど、どう進めていいか分からなくなってね。どの選択をすれば、その人の期待に応えられるか迷っちゃってるんだよね」

 最初は手崎のことが苦手だった加賀だが、今は不思議と心の内を明かしていることに気づいた。

 「ああ、ごめんね。こんなこと手崎さんに話しても困るよね」

 手崎は変わらず盤面を見つめながら答えた。

 「私は、先輩の正直で優しくて真っすぐなところが好きですよ。先輩が信頼している人もきっとそうだと思います。だから、どれだけ迷っても、先輩が出した答えなら、どんな答えでも受け止めてくれると思います」

 加賀は驚いた。苦手だと思っていた存在に、まさか心が救われる日が来るなんて思ってもいなかったからである。

 「そっか。確かに俺、優しいし正直だし真っすぐだしね。なんか自信湧いてきたよ。ありがとね」

 手崎は相変わらず盤面を見ながら駒を進めていた。

 「先輩」

 「何?」

 「もう詰んでますよ」

 「やっぱ上手くはなってなかったね」

 加賀の心からは迷いが消えていた。

▼30日間の革命 1日目~20日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!​

takuma.o 

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