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30日間の革命 #毎日小説60日目

 その日のバレー部の練習が終わったのは19:00を過ぎた頃だった。1、2年生はグラウンドを罰走として10週し、その後も腕立てや腹筋などの筋力トレーニングを課せられ結局ほとんどボールを触ることはなかった。そして、バレー部では部活終了時に終礼が行われる。終礼は、江藤の機嫌によってその長さが変わる。この日の終礼は、もちろんとんでもない長さとなった。そして、最後には手崎の話しとなった。

 「2年生に手崎って女子生徒がいるんだけど、かなり性格がねじ曲がっていて、正直私はかなり迷惑かけられている。だから、お前らも手崎を見つけたら、しっかりと指導してやれ。服装とか髪型はもちろんだけど、あいさつだったり授業中の態度が少しでも悪かったら注意しろよ。あと、2年生たちは、あいつを放課後見かけたら、一緒にコートの掃除をさせろ。わかったか?」

 「はい」

 江藤の厳しい口調に、部員たちは返事をするほか選択肢はなかった。そして、後片付けや着替えを終え、橋田たち2年生は複数名で下校した。

 「今日の江藤さんマジでやばかったよね。朝からずーっとぶち切れ状態だったじゃん」

 「全部手崎のせいだよ。今日だってほとんど基礎トレばっかだったじゃん。マジで明日見かけたら言ってやろうかな」

 「あたしらも、手崎見かけたら注意しないと江藤さんに怒られるからいいんじゃない」

 やはりここでも、部員たちの話題は手崎のことだった。江藤の命令により、明日から江藤だけでなく女子バレー部員全員が手崎に対しての当たりが強くなる。そんな状況を心苦しく思った橋田は、

 「……これって、いじめみたいだね」

 と思い切って問いかけた。すると、部員たちは、

 「いじめ? 違う違う。指導だよ。江藤さんも言ってたでしょ。性格を直すための”指導”だってね。私らも手崎の態度が悪くなければ注意しなくてもいいんだし、全部彼女のためだよ」

 と橋本の問いかけに、一人が答えた。

 「そうそう。今までもこんなことあったけど、先生も誰も注意とかしないじゃん。まあ確かに江藤さんは厳しいけど、悪いのは手崎だよ。しょーがないね」

 と、他の部員たちも「手崎が悪い」という意見に次々と同意し始めた。すると、その内の一人が、

 「でもさ、最初に手崎のこと江藤さんにチクったのって、加代子でしょ? 何か生徒会長とか加賀先輩とかと仲良くしてるのが気に食わないって江藤さんに報告したそうじゃん」

 と橋田へ問いかけた。橋田の心臓は、鋭いトゲが突き刺さったような痛みに襲われた。

 「えー。そうだんたんだ。意外と加代子も手崎のこと悪く思ってたんじゃん。まあ、地味なくせに加賀先輩と仲良くしてるってのは、ちょっと気に食わないけどね。でも江藤さんにチクるとか、結構キツいことするね」

 他の部員たちは、少し笑いながら、橋田の行動に驚いていた。橋田も、まさか他の部員にこのことが知られているとは思わなかった。江藤に近づくため、他の部員には気づかれないように行動したつもりだった。

「江藤さんに”白の会”っていう集まりに偵察に行って来いって頼まれてたから報告しただけだよ。チクったってほどじゃ」

 と、橋田が何とか取り繕った。

 橋田はこの時気づいていなかった。次期キャプテンの座を狙っているのは橋田だけではないということを。


▼30日間の革命 1日目~59日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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