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30日間の革命 #毎日小説43日目

 放課後、加賀は校門で母親の到着を待っていた。そして、待ち合わせの時間から5分ほど遅れて母親は小走りでやってきた。

 「ごめんごめん。仕事がちょっと長引いちゃって」

 「いいよ。なら、教室行こっか」

 そう言うと、加賀は母親を連れて教室へと向かった。教室へ向かう道中も母親から、

 「結局進路どうするか聞いてないけど、大丈夫なの? 先生にはちゃんと考えていること言うのよ」 

 と進路について言われたが、

 「うん。ちゃんと話すよ」

 と言葉短く答えた。

 教室へ差し掛かる手間で、坂本の姿が見えた。向こうもこっちに気づいたようで、軽く会釈をした。

 「まー、美人な子ね。あんな子と友達なの? 今度紹介してよね」

 母親は、坂本の姿を見て少しテンションが上がっているようだったが、構わず教室へと向かった。

 そして教室へ入ると、担任の高橋が待っていた。

 「いやー、この度はご足労いただきありがとうございます。暑かったでしょう。さ、こちらにおかけください」

 「いえいえ、こちらこそいつも息子がご迷惑をおかけしております。本日はよろしくお願いいたします」

 形式的な挨拶を済ませ、3人は席についた。

 「えー、今日は3年生になって初めての三者面談なんですけれども。やはり進路についてお母さま含めて、どうお考えなのかをお聞かせいただければと思っております。それで、まあこちらの面談で、ある程度は受験の方法とか、志望する大学なんてのも確認できればと思っておりますので、よろしくお願いします」

 高橋は、手元の書類を見ながら話を始めた。

 「で、4月に進路希望調査を取った時には、加賀君は大学への進学を希望していましたが、こちらは特に変わりはないですかね」

 そう言うと、手元にあった進路希望調査の紙を見せられた。そういえば、その紙を書いたときは、何となく大学へ行こうかなと思って、大学進学へ〇を付けて提出したことを加賀は思い出した。

 「えー、そうなんですか。この子ったら、家では進路のことなんてめったに話さないので、進学するなんてはっきり聞いていなかったんですよ」

 母親は少しオーバー気味なリアクションをとり、こちらを横目で見た。その目から、後で怒られるんだろうなと加賀は悟った。

 高橋は、母親をたしなめながらこう聞いてきた。

 「で、実際はどうなんだ。今も大学へ進学希望なのか?」

 加賀は、少しだけ間をとってから口を開いた。

 「……正直言います。今は全然わかりません。これまで何となく大学へ行って楽しく過ごせればいいかなって思っていました。その希望調査も、そんな気持ちで書いたから、親には特に言ってませんでした。でも、ここ最近で、しっかり考えなくちゃいけないっていうことに気づきました。だから、もう少し時間がほしいです。遅いかもしれないけど、しっかり考えてから、また相談したいって思ってるのが、今の正直な気持ちです」

 加賀は真剣な眼差しで訴えた。

 「わからないって、それを相談するための面談でしょ。もう本当に先生すいません。この子、何にも考えてなくて」

 母親は少し戸惑っているようだった。

 「いえいえ。まあ正直に話してくれている分、素直でいいですよ。加賀のこういう部分が、他の生徒から好かれている理由だと思いますしね」

 高橋は意外にも、加賀の返答に肯定的だった。

 「まあでも、考えるって言ってもそんなに時間はないぞ。それに、志望校も早めに絞っておかないと、対策も出来ないからな。それはいつまでに考えるんだ?」

 高橋はいつになく真剣な表情だった。そして、そんな高橋を見るのは初めてだった。

 「今月いっぱい時間をください。そこまでには、色々と自分の中でも答えを出して、先生や母さんにも話したいと思います」

 高橋は、少し上を見て考えるそぶりを見せてから話はじめた。

 「今月いっぱいか。夏休みになれば、いろんな大学のオープンキャンパスとかも活発に開催されるから、それまでにある程度方向性が決まればまあ間に合わんこともないか。だた、今月いっぱいで決まるのか?」

 母親もそれに続いた。

 「そうよ、あんな何にも考えてなかったんでしょ。そんなんで本当に今月中に決められるの?」

 加賀は、

 「うん、決めるよ。俺なりに真剣になって考えてみる。だからもうちょっとだけ時間をください」

 と答えた。

 いつもはへらへらしていて、家でも能天気な姿しか見てこなかった母親は、真剣な表情で話す息子に少しだけ驚いていた。

 「……よし、わかった。なら6月末にもう一回面談するか。その代わり、何度も言うようだけど、真剣に考えろよ。そして、一人で勝手に決めるんじゃなくて、お母さんにもちゃんと相談するんだぞ。いいな」

 高橋はそう言い、6月末に再度面談をすることが決まった。


▼30日間の革命 1日目~42日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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