30日間の革命 #毎日小説67日目

 橋田は、加賀と二人きりになるという予想だにしていない状況に戸惑っていた。もしこんな状況を誰かに見られたら、勘違いされるかもしれない不安。でも、今までは遠い存在だと思っていた加賀がこんなに近くにいる嬉しさ。そんな二つの感情が混ざり合い、複雑な気持ちになっていた。

 (どうしよ。何を話したらいいか、全然思い浮かばない……)

しばらく無言の状態が続いた。すると、加賀から

「そういえば、名前聞いてなかったね。良かったら教えてくれる?」

 と話しかけた。

「は、はい! 私は橋田加代子って言います。そう言えば、この前白の会の集会に参加しました!」

 橋田はどぎまぎしながら答えた。

「そうなんだ。集会参加してくれたんだね。ありがと。誰からか誘われたの?」

 加賀の質問に、橋田は一瞬考えた。江藤から参加を命じられたことを上手く伝えれば、もしかしたら加賀が江藤にそのことを感謝するかもしれない。江藤と加賀はよく話す間柄と聞いていて、江藤も加賀に感謝されることを嬉しく思うはずだ。そして、橋田からこの話を聞いたってことが分かれば、橋田に対する江藤の評価も上がるかもしれない。ただ、江藤の名前を出すことはそれだけリスクはある。加賀と一緒にいたことを妬まれては逆効果だ。橋田は色々と考えたすえ、

「えーと、私女子バレー部なんですけど、キャプテンの江藤さんから集会の噂を聞いて参加しました」

と、江藤の名前を出す選択をした。

「へー、女子バレー部なんだ。で、江藤ちゃんから話聞いたんだね。何か意外だな」

「い、意外ですか?」

「江藤ちゃんって『バレー一筋』って感じがして、こういう活動には興味ないのかなって思ってたからね」

「そうなんですね。でも、江藤さんのおかげで集会に参加することが出来たので感謝しています」

「そっか。こっちも参加してくれて嬉しいよ。なら、江藤ちゃんにも感謝しなきゃね。今度お礼でも言っておこうかな」

橋田の想定した通りの展開になった。あとは、加賀と二人きりで話していたということを誰にも見られなければ、江藤からの評価は上がると思った。

「そういえば、2年生って言ったよね。なら、手崎さんのこと知ってる?」

「手崎ですか? は、はい。知っていますよ」

「そっか。手崎さんって最近どんな感じかわかる? 俺も中々話せてなくてさ」

 再び橋田は考えた。いま手崎のことを正直に話せば、手崎は少し救われるかもしれない。加賀が味方になれば、さすがの江藤も攻撃を緩めることになるだろう。だけど、それこそ誰かがチクったなんて噂が出回れば、江藤は犯人探しに躍起になることは間違いない。もし見つかれば、自分がターゲットになる。どうすればいいか、少し迷った。

「い、いや、私も手崎さんとそんなに話さないので、ちょっとよくわからないです……」

 手崎を救いたい気持ちもあったが、リスクを考えるとやはり今の状況を加賀に伝えることは出来なかった。橋田はそんな自分を情けなく感じていた。


▼30日間の革命 1日目~66日目
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