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不器用でもいいから、「直接話法」で貪欲に伝えるーー宮坂副知事とnote担当西田さんが語るこれからの都政の広報

世の中のデジタル化が加速するなか、どのように情報発信をしていくか、発信において何をKPIと設定すべきかが重要な課題になっています。

noteでは、東京都の宮坂 学副知事、東京都デジタルサービス局の西田 純さんをお招きしてオンラインイベントを開催しました。東京都は現在、東京都庁のアカウントに加え、部署ごとにいくつかのnoteアカウントを運用しています。今回はそのなかの1つ、「#シン・トセイ 都政の構造改革推進チーム」のお話を中心に、東京都がnoteをつかって情報発信をしていくなかでわかったことや、これからの行政の広報のあり方などについてくわしくお伺いしました。

自治体の方、企業の方、個人の方など、情報発信で試行錯誤するみなさんにとってヒントとなれば幸いです。

双方向コミュニケーションで改革を進める

━━シン・トセイのnoteは2020年にはじまりました。まずはシン・トセイの取り組みや、シン・トセイができた背景について宮坂さんからご説明いただければと思います。

宮坂さん  「シン・トセイ」というネーミング案は現場の若手職員から挙がってきました。こういう名称にすると批判も出てくると思いましたが、覚えてもらわないことには批判をいただくこともできません。そこも含めて1つの情報発信ですから、勇気を持って発信しようということでこの名称に決めました。

東京都副知事 宮坂 学さん

現代は世界の6割のひとがインターネットをつかい、また、世界の半数以上がソーシャルメディアを利用しています。しかし、行政のデジタル化は遅れており、昭和型の仕事様式のまま令和の時代を迎えてしまいました。だからこそいま都庁は、リアル都庁からバーチャル都庁への引っ越しを行っています。行政のサービスもバーチャルで行い、職員もバーチャルで働けるようにします。もちろんリアルも残し、リアルとバーチャルの二刀流で対応できるようにしていきます。

デジタルサービスを氷山にたとえると、氷山の上の目に見える部分の体積を大きくして、品質を上げていきたいと考えています。そのためには目に見えない根っこの部分を整えなくてはなりません。人事制度や技術評価制度の仕組みや、UIやUXのガイドラインをつくったりなどの改革が必要です。これをやっているのが「シン・トセイ」です。

シン・トセイでは、ポータルサイトやSNS、noteで情報発信をし、双方向でのコミュニケーションで改革を進めています。

記事への共感や好感を測れる「スキ」の数をKPIに設定

━━シン・トセイのnoteを運営されているのが西田さんです。2022年1月に公開された『都政の構造改革note、データドリブンで考えるこれまでの振り返りとこれからの目標』という記事のなかで、シン・トセイチームが1年間noteを運用してきてわかったことを書かれています。この記事の内容についてお話しいただけますか? 

西田さん  2020年10月にシン・トセイのnoteをはじめてから1年が経ったタイミングで、振り返りをしようということでこの記事を書きました。

東京都デジタルサービス局戦略部デジタル改革課主任 西田 純さん

まず最初に、都政の構造改革のnoteが目指すことを言語化しました。noteでの発信を通じて構造改革の「ファン」をつくって、そのファンの力を改革の推進力にしていくということが私たちが目指すことなのではないかと考え、都民、職員のみなさまとの「双方向コミュニケーション」ということを重視しています。

次に、ビュー、スキ、フォロワーのこれまでの推移について、2ヶ月ごとの数字をグラフにして振り返りました。転機になったのは、『「シン・トセイ」、始まります。』という記事です。この記事が話題となって、ビュー、スキ、フォロワーが増えました。

そして、構造改革の「ファン」をつくる、という目標を設定したとき、これら「ビュー」「スキ」「フォロワー」の3つの指標のうちどれをKPIに設定するかを考えました。「ビュー」は認知度を測ることはできても、ファンになっているかどうかはわかりません。「フォロワー」は直接ファンの数が測れるいい指標ですが、noteのアカウントを持っていないとフォローできません。そこで私たちが注目したのが、noteのアカウントを持っていなくてもハートを押すことのできる「スキ」です。スキの数によって、記事への共感や好感を効果的に測れると考えました。

さて、ここからが分析の「キモ」になるところなのですが、1週間ごとに見たビュー、スキ、フォロワーの数字を並べてプロットし、その相関関係を分析しました。その結果、スキが増えるとフォロワーの増加につながりやすいけれども、ビューが増えてもフォロワーの増加にはつながりにくいということがわかりました。

統計的に見ると、やはり広く共感される記事をつくることで、まずスキが増えてフォロワーが増え、結果的に広く読まれる、ビューが増えるということになります。どんな記事にスキがつきやすいのかといったことも分析しており、「インパクトは大事」「ニッチだけど...」「顔が見える」をキーワードに2022年度末までに累計で1万スキの獲得を目標としています。

行政の広報の起源は高札? noteで高札のUI改善を目指す

━━すごい分析ですね。西田さんが考える「都政の広報」についてもお伺いしたいと思います。

モデレーター:noteプロデューサー 徳力 基彦さん

西田さん  noteで日々発信しながら思うのは、広報は単なる情報発信ではなく、PR、つまり「Public Relations」であって、行政と都民(Public)との「関係性(Relations)のマネジメント」にその本質があるのではないか、ということです。そう考えると、都政の構造改革自体、行政と都民との関係性のイノベーションを目指していて、行政手続きのデジタル化のような都民のみなさまへのサービスの質の向上だけでなく、オープンデータ、オープンソースなど、幅広いみなさんに行政に参加していただくような関係性のイノベーションも目指している、と言えるのではないかと思っています。

行政の広報の起源は「高札たかふだ」にあるんじゃないかと個人的に思っています。高札を置いたことによって、ある公的な機関から民衆への情報発信がはじまった。でも、高札は「顔が見えない情報発信」ですよね。行政と都民の「関係性のマネジメント」に注目したとき、私たちはnote、デジタルの力をつかうことで、高札のUIを改善しないといけないのではないかと思うんです。高札の裏側にいるひとの「顔」を見せることで、行政と都民との間で「よい関係性」をつくり、そのことを通じて幅広いひとたちが行政に参加できるような素地をつくること、それがこれからの行政の広報が目指すことなのではないかと思います。「高札的な広報をしてないか?」と自分に問いかけることが重要になってくると思います。

高札:古代から明治時代初期にかけて、法令などを板面に書いて人目をひくところに掲げたふだ。「こうさつ」ともいう。

宮坂さん  「顔の見える広報」というのは大事です。悪いことをしているわけじゃないんだから、隠れてやる必要はまったくない。直接伝えられる時代ですし、むしろもっと伝えることに貪欲にならないといけないと思います。そうしないと批判すら起きませんから。「最大の敵は無関心」という言葉がありますが、ひとは自分の知らないことには無関心になってしまいます。知ってもらい、関心を持ってもらうためにも、もっと貪欲に伝えていかなければと思っています。

行政と住民の関係性をイノベーションする

━━「参加ビリティ」という宮坂さん独自の概念があるとお聞きしました。これはどういったものですか?

宮坂さん  世の中は住民に参加をしてもらうように進化しています。もう行政がサービスをつくってみなさんが受益するという時代ではなくなってきている。選挙も昔は一部のひとしか投票できなかったけれど、女性も投票できるようになり、さらに18歳選挙権も施行されました。

一方、歴史をさかのぼると、もともと住民自体が行政的な活動をしていたという事例もあります。たとえば消防団の起源は江戸時代から続いてる「火消」だと言われています。火消は自治組織で、住民が参加していたそうです。このように、「行政」と「住民」をはっきり分けるのではなく、住民がもっと参加していけばいいのではないかというのが「参加ビリティ」の考え方です。現代はデジタル化が進んでいますが、デジタルのいいところは住民が参加できるところ。だから、もっと「参加ブル」にできないかと考えているんです。

西田さん  参加ビリティの話が私はすごく好きで、自分のなかにもそういうマインドが結構あるなと思っています。宮坂さんは、シビックテックのことをデジタルの消防団と考えているともおっしゃっていました。先ほど挙げた高札の例もそうですが、情報発信のマインドとして、そういう歴史認識を持つことは大事だと思います。ただ発信するだけでなく、発信を「参加」につなげていけるよう、行政と住民の関係性をイノベーションすることが重要だと思っています。

不器用でも自分の言葉で書いたほうが届く

━━noteをつかって発信する意味や、発信する上で大事なことについて教えてください。

宮坂さん  1つは、仕事を振り返る上で自分で文章を書き、そこから学びを得ることが大事です。下手でもいいんです。仕事をした経験から知恵を取り出すという作業が重要です。そして、それをたのしんでやることですね。たのしくないと持続しないですから。

また、「直接発信」することが大事だと思います。間にプロが入ると、それでよくなることもありますが、失われてしまうものもあると思うんです。デジタルのいいところはやっぱり「自分でつくれる」ことなので。noteのおもしろさも、「だれもがクリエイターになれる」ところにあると思います。

西田さん 実際にnoteをやってみて、プロっぽい100点満点のものを目指すのではなく、不器用でも自分の言葉で書いたほうが届くのかなと思いました。そこにこそなかなか内側が見えにくい役所がnoteをつかうおもしろさ、意外性があるんじゃないかと思います。まずは、宮坂さんがおっしゃったように、自分の振り返りや学び、記録として書いてみるというスモールスタートでやっていくのが大事だと思います。

情報発信は、フィードバックをもらうためにも絶対必要

━━最後に、今後の東京都の情報発信についてや、発信に悩んでいる方に向けたアドバイスをいただければと思います。 

西田さん  伝統的な広報部門でメディア対応を含めた情報発信をやっていくのも大事だし、続けるべきだと思います。一方で私がいまやっているような、担当者がnoteをつかって発信するということも、これから東京都のなかで少しずつ根付いていくと思います。

noteやSNSのおもしろさの1つは、数字が見えることです。これまで役所でやってきた仕事ではなんの反応もなかったのが、スキがついたりフォロワーやPVが増えたりという数字が見える。数字とは関係のない内部資料をつくる仕事ももちろん大切ですが、ダイレクトにひととつながってリアクションが数字でわかる世界は、職員にとっては意外とたのしいもの。ですので、自治体のみなさんのなかで「やってみたいけどどうしようか」と思っている方がいらっしゃったら、もしよろしければ東京都の事例も参考にしていただきながらやってみていただければ、それは職員にとってもいいことだし、組織にとってもいいことなのではないかと思います。

宮坂さん  いまはnoteやさまざまなSNSがあって、やっと自分たちで情報発信できる時代になりました。これをつかわないのは本当にもったいないと思います。情報発信は、フィードバックをもらうためにも絶対必要なこと。厳しいフィードバックもあるかもしれないけれど、行政のデジタル化を進化させるためにはフィードバックをもらうことが一番大事です。

フィードバックをもらうための1つの方法として、担当者が直接話法で語ることが大事です。勇気はいると思いますが、勇気を持って情報発信することが重要だと思います。

━━テクノロジーがいいほうにつかわれていく社会になるといいなとしみじみ思いました。 おふたりとも、本日は参考になるお話をありがとうございました。

登壇者プロフィール

宮坂 学さん
東京都副知事

1997年6月、ヤフー株式会社に入社。同社CEO・代表取締役・取締役会長等を歴任し、2019年6月に退任。同年7月より東京都参与に就任し、同年9月より現職。東京都のDXや国際金融都市をはじめとする東京の成長戦略を推進している。

西田 純さん
東京都デジタルサービス局戦略部デジタル改革課主任

2015年4月、東京都入庁。産業労働局総務部企画計理課、同局観光部企画課、総務局人事部人事課を経て、2021年4月より現職。都政の構造改革推進チームの総括担当として事業を推進しながら、職員の顔が見える情報発信を心掛けnoteの記事を作成している。
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text by 渡邊敏恵

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