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少女奔走要塞学校

 わたしはリクソウさんを追い越し、高射砲横の白線に立つ。日差しが強い。日傘を持参したほうが良かったかもしれない。

「リツちゃん、足速いね」とリクソウさんがいう。非番なので私服だが、素朴な感じが良い。「部活入ってる?」

「帰宅部で……でも、お弁当、作ってきました!」とわたしはいう。川沿いのベンチに到着すると、おにぎりとウインナーを広げる。遠くには墜落したアレクシーの残骸が残っていた。

 地球上空に怪物――最初に観測した科学者から、名前はアレクシーだ――が出現して20年になる。わたしが生まれた頃、人類はシェルターにこもっていたけれど、ある時どこかの国が「太陽と月と星が我々を生かす」と宣言し、軍を地表に展開した。

 わたしが暮らして、学ぶ〈要塞学校〉は結果の一つだ。超大型の防壁で覆われた学園は、いまはアレクシーがいないので防壁がオープンになっている。

 リクソウさんが無邪気にサンドイッチを頬張る。学校で仕事をする自衛隊員の一人で、他の人は陸曹と呼ぶ。実は名前を聞いていない。今回のデートの目的は、彼の個人情報を聞き出すことだ。

 そもそもデートするきっかけも、校舎裏でサボっていた彼に、初対面のわたしが「日曜日の午前中、お散歩しませんか。でないと上の人にいいます」と声をかけたからだ。

 しかし、わたしは真面目なリクソウさんも知っている。学校の周囲で歩哨に立つところ。アレクシーの襲来時にいちはやく学生を避難させてくれるところ。

 姓名も調査済みなので知ってはいる。しかし、本人の口から聞きたいのだ。

「サンドイッチうまいね」という彼の真上に、影が差す。ドームの閉鎖だ。警報が鳴る。アレクシー出現――どうやら怪物はデートを台無しにする気らしい。仕事モードで立ち上がるリクソウさんの袖を、わたしは掴む。

「……途中までついていきます」わたしはリクソウさんにいった。「基地に着くまでは、お話できますよね?」

【続く】

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