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サン・フォア・ザ・サン

 打ち下ろした拳が少年型ロボットの頭を打ち砕く。奴は少年のかたちこそしているが両腕に投擲型トマホークが埋め込まれており、ゴング直後にこちらの頭を吹き飛ばしに来た。セコンドの情報がなければあれで負けていた。

 頭部に埋め込んである基盤を抜き取った私の腕をレフェリー型ロボットが差し上げ、津波のごとき歓声と怒号がバトルグラウンドに響く。快感を知る回路はあるが、感慨はない。セコンドとともに控え室へと歩く。〈M8221〉とそっけなく記してある。

「で、反省会だ。アンタ、相手のかたちを見て油断したね。腕をよく見ろといっただろ」

「申し訳ありません」

 私はパイプ椅子で潤滑油を補給しながらいう。セコンドはふうと息をつき、人間用ソファーに座る。気迫の強さだけ取れば彼女も選手並みだが、あいにくこのロボットマッチに人間は出られない。出場者は無生物ならクレーンからお掃除ロボットまで何でもありで、主催もロボットだ。

「じゃ、二回戦の話に移ろう。相手は無人戦闘ヘリ、アパッチ改良型……ねえ、こんなのにも基盤が積んであるの?」

「ロボットであれば何でもありえます。無人機も然り」

 私は答える。基盤はロボットにとっては欠かせない、自身のコアだ。私が求めるのは〈最初の〉基盤であり、いま私の頭部に埋め込まれた基盤は汎用型に過ぎない。

〈M8221〉シリーズは数千万台が製造された執事型ロボットだが、その創始者はエルガー博士だ。妻と一歳の子供をテロ事件で喪った彼は人間に絶望し、全生涯をシリーズ制作に費やした。だが彼は血縁と遺伝子に極端に執着しており、死ぬ間際には自身の血液に〈M8221〉最初の基盤を浸したのが確認されている。基盤には博士の人生と情報が入っており、あらゆる国の諜報機関やスパコンを行き来し、現在はロボットマッチの賞品だ。エルガー博士の基盤を誰もが望む。私も望む。

 だが、なにより。

 私は彼の息子になりたい。

【続く】

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