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『疑似餌』 #1200文字のスペースオペラ

 エイリアンは排除したが、宇宙船のクルーも全滅した。三人の中で生き残ったのはマックだけだ。

 マックは堅実な人生を送った。スラム街で生まれたマックだが、算数の問題はよくできたし、工作も得意だった。上の兄弟は八人いたが、大学院を出たのはマックだけだ。マックの肩には家族の生活がかかっている。ゴールドラッシュの職業といえば、宇宙飛行士だ。

 開発が進んだ結果、木星までのルート開拓が現実的になった。宇宙飛行士も激増し、マックは衛星タイタンの第四支部の調査を命じられた。リーダーはマック。サポートはヨーコとアリア。ラッシュに伴い人数が減るのは仕方なかったが、男性一人に女性二人というのは居心地が悪い。

 結果的に彼女らは死んだ。が、マックは淡々と作業をこなす。エアロックにゴムが張り付いたのだ。クルーが確認するしかなかった。ゴムは生命体だった。アリアの心臓を破壊したゴムは宇宙船に侵入し、ヨーコの脳を吸っている最中に銃で吹き飛ばされた。

 仕事は続行する。金がなければ無意味だ。

 死んだエイリアンはヨーコの顔面にへばりついて、彼女の顔は塞がれたままだ。どうやらゴムには強い吸着力があり、おまけに溶解液を吐き出す。

 マックは地表に降りて研究サンプルを詰め込む。一日働けば二万ドル。あのゴムで二十万ドル。マックはヨーコとアリアを思い出す。二人がつきあっていると聞いたのは着陸前夜だ。結婚式に来て欲しいとかいっていたが、あまり覚えていない。アリアが死んだ時、ヨーコはパニックになってエアロックに向かった。マックは倉庫へ向かい、銃を握った。

 マックは洞窟へ向かい、生命体がいるのを感知する。あのゴムだ。ゴムは、生き物を狙う。行くのは危険だ。

 ふとマックは、死体が疑似餌になるだろうかと思いつく。捕獲できれば、報酬は十倍。マックは宇宙船へ戻り、アリアのポッドを引き出す。

 死体を運ぶのは簡単ではなかった。罪悪感が頭を過る。が、金だ。ここまで金のためにやってきた。これからも金が欲しい。

 予想通りゴムはアリアに群がった。麻酔銃でゴムを眠らせ、密閉する。二匹捕まえて、五匹捕らえる。報酬額はもう、計り知れない。

 アリアと一緒にヨーコの死体も再利用した。仕方がなかったのだ。アリアは途中でバラバラになって使えなくなったからだ。やがてヨーコの体もズタズタになった。ゴムが増えすぎたので、二人の体は同じポッドに封入した。

 まあ、つきあっていたんだし、いいだろ?

 マックは仕事を終え、無線で帰投の旨を告げる。クルー死亡も告げる。が、最終的な手取りはかなりのものだ。マックは宇宙船を出発させる。

 マックは興奮して忘れている。ゴム同士は吸着することで融合していく。それによってポッドは膨らむ。同じように顔にゴムが張り付いたヨーコは、アリアと融合して巨大化するのだ。気づいた時には、船の天井いっぱいに膨らんだ巨魁がマックに手を伸ばす。

《終わり》〈1195文字〉

本作は#1200文字のスペースオペラへの応募作品です。

あとがき:飛び入り参加です! 年末からひそひそと作っていましたが、土壇場で急に全てを変えてしまいましたので、一から組み上げました……! 今年もよろしくお願いいたします!

photo by Yuliya Kosolapova on Unsplash






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