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【モータル・アンド・イモータル】プラス・ヴィジョン#3

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 マルチプルは裏路地の一角に潜んでいた。繁華街にほど近い場所であるが、他のヨタモノは寄り付いていない。臨時で拵えた隠れ家にしては上出来だろう。彼はニンジャ治癒力で先日の傷を癒していた。裂傷打撲含めて二十カ所近い。スレイされなかったのは奇跡でもあった。

 彼は首の一つに監視を任せながら思考を重ねていた……何故ニンジャスレイヤーと名乗ったあの者は、ニンジャであるのにイモータルを狩るのか。答えは出ない。喜怒哀楽……マルチプルの首たちはニューロン内部で議論を交わすが、どう見ても理解できない。ニンジャ常識とかけ離れている。

(((ニンジャスレイヤー自体がおかしいのでは)))そう発言したのは哀である。そもそもはじめに純粋ニンジャへの考えを提案したのも彼であった。哀しみは記憶と繋がり、記憶は理性へとつながる。ニンジャPDCAの立案に哀が関わるのは必然であった。(((奴は狂っている。そのうち死ぬであろう)))

(((ならばエーリアスについてはどう説明する)))返答は怒である。たいてい怒と哀が議論するのだが、なぜなら喜楽は現世を楽しんでばかりであまり議論にならないからだ。(((いくらマッポー・アポカリプスといえど、ニンジャの身体を有しながらなぜ非ニンジャとして生きる。イモータルの道をなぜ捨てる)))

(((わからん。しかしあのエーリアスをたどっても、純粋ニンジャへとつながるのかどうかも疑問だな。ニンジャスレイヤーと同じく変異種である可能性が高い。もっと真っ当なニンジャはいないものか)))

 純粋ニンジャ……それこそがマルチプルの本懐であった。自分が培養槽で生まれた失敗作ということは嫌でも知っている。歪で正しくない存在だ。本来ならば頭は一つであった……だが頭は四つある。ニンジャソウルの混乱も致し方なく、マルチプルは混乱を収めるために純粋ニンジャへと到達する必要があった。

 ニンジャ到達のためには他ニンジャの観察が欠かせない。だが彼は脱走したばかりであり、他のニンジャとめぐりあう機会はなかった。闇に生き、モータルの血をすする半神的存在……それを探すうちに彼は、ドバシを見つけた。マルチプルはジツとニンポの違いも理解できなかったが、ドバシには何かあるかもしれないと考えた。

 奴がニンポと呼ぶ馬鹿らしい代物でも、純粋ニンジャの片鱗が混ざっているかもしれない。だが結果はニンジャスレイヤー……何故他のニンジャが邪魔をするのか? エーリアスとは? ドバシは何だったのか?

 彼は無垢であり無知でもある。ネオサイタマの現況を、ソウカイヤ残党がはびこり、アマクダリ・セクトが支配し、野良ニンジャが欲望のままに生きる現実を理解できない。現実を学ぶには時間の流れがあまりに早く、そして危険だった……首の一つが叫ぶ。警告だ!

「クセモノダー!」低い警告音を聞きつけた人格たちはニューロンから現実へと帰還! 発達したニンジャ第六感で不審人物を探知……その数は二。いずれもニンジャだ。マルチプルは舌打ちした。ここに来る者などマルチプルに用があるとしか思えない。ニンジャスレイヤーのクランか。

 まずは先手を打つ……!「イヤーッ!」マルチプルが隠れ家から一挙に跳躍し裏路地を突き進むニンジャの前に現れる! 先制アイサツ!「ドーモ、マルチプルです」一人がマルチプルの外貌に面食らっている間にもう一人がオジギ。「ドーモ、マルチプル=サン、アサルトシールドです」

「マチェテです」もう一人がアイサツをする。「探したぜマルチプル=サン、お前サン随分暴れたじゃないの。ここらで潮時だ」背中の大盾を前面に押したてたアサルトシールドが口にする。盾の前面には無数の棘!「首級を持ってきゃ懸賞金! つーか首多すぎ!」

「懸賞金だと?」喜のマルチプルが問うが、その身体はイクサのアドレナリンに打ち震える! 煽動する筋肉!「ヨロシサンからのハント要請だ。お前、失敗作のくせに逃げたんだって? アマクダリもハントに参加してるぜ!」「ダマラッシェー!」失敗作呼ばわりにマルチプルは激怒! 突撃!

「イヤーッ!」巨体に似合わない敏捷さ! 初手の殴りをアサルトシールドが防ぎ、マチェテが斬りかかる! だがマルチプルは跳躍回避、バウンティに向けてスリケン投擲!「イヤーッ!」マチェテが得物で叩き落すが、既にマルチプルは二人の背後だ!「殺そう潰そう! イヤーッ!」小太刀とマチェーテの鍔迫り合い!

 BLAMBLAMBLAM! アサルトシールドがマチェテの身体越しにサイドアームで銃撃! 銃弾は非人道的とされるホローポイント弾をニンジャ改造したゴウモン弾だ!「俺に当てるなよテメェ!」「いいから! ちゃんと! やれ!」BLAMBLAM! マルチプルの身体に当たるや銃撃は炸裂! 喜の首が爆発するが、マルチプルは意に介さない!

「GRRR……!」マルチプルが唸る! そして小太刀を構えた両腕の下から、第三、第四の腕が生える!「ファック!?」マチェテがニンジャ膂力を発揮して小太刀を押し返すが、遅い!「イヤーッ!」「グワーッ!」巨大なヘビーアームがマチェテを横殴り!

 路地壁に叩きつけられるマチェテ!「相棒ッグワーッ!」アナヤ! 盾を無視したヘビーアームがアサルトシールドを襲う! 手は穴だらけだがマルチプルは無視! 右ストレート!「グワーッ!」 左ストレート!「グワーッ!」盾ごとの衝撃にニンジャが怯む!

「ザッケンナコラグワーッ!」ショックから回復したマチェテの腹部に小太刀投擲! ZDOM! ワザマエ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」アサルトシールド自身の得物による持ち主圧縮! 立ち直る暇がない!

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」囲んで棒で叩くような衝撃! 既に朦朧としたニンジャをヘビーアームが盾ごと圧殺!「サヨナラ!」アサルトシールドは爆発四散!「テメェーッ!」

 激昂するマチェテの顔面を殴りつけるマルチプル! アナヤ! 喜の顔面は修復されつつあり、ジコカイゾウ・ジツによる副作用である血の涙が伝う!「何故!」「ニンジャが!」「仲間割れを!」「アババーッ!」「許せん!」「狂っている!」「ファック!」今や全ての顔面が唱和する! コワイ! 怒が血走った眼をニンジャに向ける!

「お前も俺たちになれェーッ!」もがくマチェテの顔面を拳で乱打! 乱打! 破砕!「サヨナラ!」マチェテが爆発四散!「オボボーッ!」マルチプルは嘔吐! ナムサン! ニンジャでありながらニンジャと戦うアンビバレントに幼稚なニューロンが耐えられなくなったのだ!

 嘔吐はしばらく続いたが、不意にマルチプルは立ち直った。ニューロンの急激な成長である。ニンジャソウルはいかに未発達であってもイクサとカラテによって育つ。古事記にもそう書いてある。マルチプルたちは自身のステータスを確認し、他ニンジャがいないことを確認する。

 うごめく首たちは銘々が勝手に動き、四散したニンジャの身体を検分する。「カラテか?」「カラテだ」首たちは会話し、やがて武器ごと残骸を食い始めた。カラテによる帰結である。そしてマルチプルは食事から学ぶ……アマクダリ・セクト……ヨロシサン……ネオサイタマ……モータル……サヴァイヴァー・ドージョー。

 あそこにはヨロシサンから逃れたバイオニンジャたちが集う。

 まずは殺しそこねたドバシを追う。その後はサヴァイヴァー・ドージョーを探す。うまく立ち回れば、ニンジャの集団の中でマルチプルは純粋ニンジャへの道を手にする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「連続殺人事件か」暗黒非合法探偵フジキド・ケンジは腕組みをした。そこは簡素な部屋であった。チャブにはマッポの無線を盗聴するための非合法特製無線機、壁際にはマネキネコにUNIXなどの実用品があり、対面の訪問者にはチャと茶菓子が出されている。

 そこに座るエーリアス・ディクタスはチャを一口啜った。苦々しい顔つきになる。「そうなんだよ。もう五件目だ。ただ、相手はヤクザだし凶器も鉄パイプってことがわかってる。マッポは包囲網を張ってるらしくて、もう少しで捕まりそうだって」

「ならば私の出る幕はあるまい」ニンジャスレイヤーはエーリアスを見つめた。ニンジャの前では赤黒い殺意に光る眼は、今はモータルのそれと変わりがない。「モータル相手ならマッポは優秀だ。直に決着がつくだろう。犯人は法廷で裁かれる」

「それはそうなんだけどさ……」エーリアスは頬を掻いた。悩んでいる。「そいつ、さ……多分俺が、前に助けた奴なんだよ」探偵が何も言わないので、彼女は続けた。「ほら、前にマルチプルに襲われてた……から。覚えてるだろ?」やや困惑気味のエーリアスに彼は頷いた。

 あの夜、ニンジャスレイヤーはマルチプルとの戦いに臨んだが取り逃がした。劣勢に入るや否やの逃げ足が存外に早く、首たちによる連続吹き矢も災いした。ヘビーアームによる道路や建築物の破壊も無視できない問題であった。見た所、かのニンジャは元ヨロシサンのバイオニンジャであろう。サヴァイヴァー・ドージョーに合流することも考えられる。フォレスト・サワタリがいかに振る舞うかは知らないが、敵戦力は削ぐに限る。
 
 いつスレイするべきかフジキドが考えているうちに、彼はエーリアスが黙っていることに気づいた。「どうした」「その、何かな……ちょっと、懸念。心配というか、何というか……ああ、ショックなのかな」

「……」「例えばさ、どこかで俺が知り合った人がいるとする。隣に住んでる奴でも何でもいいや。話をしたぐらいで、他に接点なし。でも、そいつが悪いことをしたって聞いたら……人を殺したって聞いたらさ……そいつの事情があっても……なんか、びっくりだよな」

 煮え切らないエーリアスであったが、フジキドは頷いた。「ネオサイタマではよくある。ただ、その事件は人間社会での事だ。やはり、ニンジャの出る幕はない」わざわざ口にはしなかったが、ショックを受けたエーリアス当人もニンジャであり、人の世界から遠い。そもそも犯人は、彼女がどう感じようが素知らぬ顔だろう。

「……そうだよなあ。というか、俺自身もニンジャだしな……難しいな」沈黙していたエーリアスが口にした。フジキドはチャを啜った。「だが途方に暮れたままでは、日が暮れるだけだ。用事が済んだのなら、行動せよ」戸外を示すとエーリアスは力なく立ち上がる。背中に向かってフジキドは言った。

「何かあったら呼ぶと良い」エーリアスが反射的に目を向けたが、フジキドは彼女を見ない。「どの道、一度その者を狙ったのならばニンジャも再度現れるのが道理。私はニンジャを追おう。手に負えなくなったら、再度通知せよ。オヌシはオヌシの線で行け」

 フジキドが言うと、エーリアスは今度は力強く頷いた。そして「オジャマシマシター」とドアから出て行く。フジキドはひとつため息をつくと、チャブに備え付けの無線機の前へと座り、ヘッドセットを持ち上げて盗聴を始めた。

【続く】

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