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枯骨の恋|岡部えつ(メディアファクトリー)

2008年、第三回「幽」怪談文学賞短編部門大賞を受賞し、2009年の6月に受賞作を収録した短編集として刊行されたのが、わたくし岡部えつのデビュー本『枯骨の恋』です。
後に『夢に抱かれて見る闇は』と改題して、角川ホラー文庫で文庫化されました。

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「幽」怪談文学賞の受賞直後、この本を作るための打ち合わせがあり、編集者や、当時「幽」の編集長だった東雅夫さんとお会いしたあと、吉祥寺の末広通りをわーわー泣きながら帰ったのを思い出します。
嬉し泣きではありません。それまで小説講座でお金を出して先生に読んでもらっていたのが、突然、出版社から「じゃんじゃん書いてください、あと200枚ちょっと!」と言われたことがあまりに衝撃的で、怖くなってしまったのです。

小説講座の緩い締切でさえひーひー言いながら書いていたわたしが、その日から、文字通り寝ずに書く日々に追われることになりました。
あの数か月は、わたしの人生の中で最も無理をした時期だったと思います。そして同時に、最も力をつけた時間でもありました。あの時につけた火事場のバカ筋力で、今も書いている気がします。

この本は怪談ばかりの短編集ですが、お化けらしいお化けはあまり出てきません。大賞をとった『枯骨の恋』でも、人を怖がらせるのは幽霊ではなく幻影であり、最も恐ろしく描いたのは、主人公が抱える深く冷たい「後悔」の念です。

他の短編も、お化けより人、特に女です
といっても、「女は怖い」という単純な話ではありません。だいたい、「女は怖い」などという言い方をするのは、女に後ろめたいことをした男だけです。
わたしは、女が好きなのです。嫉妬に苦しんだり、愛のために狂っていくような女を、愛おしいと思うのです。だから、ずたずたに傷つきながら己を燃え上がらせる彼女らの、悲しみや可愛さを、冷や汗と脂汗を交互に噴き出しながら、一生懸命書きました。

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「怪談を書いていて、怖くなりませんか」と、当時よく訊かれました。
怖かったです。夜中にキーボードを打つ音だけが響く部屋で、どうしようもなく怖くなって、困ってしまったことが何度もあります。
そんなとき、よく『クレヨンしんちゃん』を見て、げらげら笑って吹き飛ばしました。あの頃しんちゃんは、わたしの大事な伴走者でした。
後に、『クレヨンしんちゃん』を出版している双葉社と仕事をすることになったとき、この話をしたところ、しんちゃんグッズをたくさん頂きました。その中のぬいぐるみは、姪にあげてしまうまでずっと机にいて、わたしを励まし続けてくれました。

この思い出深いデビュー作品には、特別な強い愛着を感じます。後のわたしの人生を決めた、大きな大きな一冊ですから。

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小説家 / 作家|『残花繚乱』双葉社(TBS連続TVドラマ化)・『嘘を愛する女』徳間書店(映画の小説版)・『夢に抱かれて見る闇は』KADOKAWA・他|『レタスクラブ』にて小説『気がつけば地獄』連載中|射手座、九紫火星、辰年| 著書→http://e-okb.com/

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