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通訳翻訳の仕事について

 通訳翻訳を一応、生業としている身として、やはり世間の人たちはこの仕事を甘く見ているのではないかと思います。

 僕はライターがもともとの仕事ですが、成り行きで通訳翻訳も現在やっています。別段、学校に行ったわけではなく、見様見真似でやってきたので、そんなに高度な事ができるわけではありません。今の会社でもフルで働かせてもらっていますが、会議などでは一応相手方の言いたいことはほぼ正確に伝えられるようにはしています。

しかし、「通訳翻訳は英語ができれば誰でもできる」と思っている人が多いのには困ります。

 結論から言うと、英語が適度にできた程度ではプロとして通訳翻訳はできません。僕は逐次通訳しかできませんが、要約力が幅を利かせること相当の日本語力がないと務まらないと思っています。

 ずいぶん前の話ですが、誰も英語もできない日本の人事課が、通訳を募集して雇ってこちらにその方を送ってきました。

 この若い子は英語のレベルはおそらく英検4級程度。中学校の文法も怪しく、翻訳内容を見てましたが、話にならず、通訳もローカルは「言っていることがわからない」と苦言。結局1年ほどで辞めていきましたが、そもそも雇った側が英語ができないのにどういう基準で雇ったのかが疑問です。

 また、不幸というか舐めていたというか、この自信過剰の若い子も「ある程度英語できれば通訳ぐらいできるでしょう」と思っていたフシがあります。

 これは全くの悲劇で雇用者も非雇用者も通訳翻訳という業務がどれだけの力量がいるのかを分からずに進めてしまった結果だと思います。双方とも通訳翻訳を甘く見ていた結果でしょう。

 マレーシアでは近年、通訳翻訳者が不足していますが、日本語をかじった程度のローカルが破格の価格で通訳として働いてしまっているため、日本人のプロの通訳者は仕事にありつけないと聞いています。何と一日あたりの通訳料は4000円ほどにまで落ちました。昔の相場は25000円ほどでした。

 通訳として雇う側も通訳者の実力を見ずに雇うため、結局難しい商談になるとニセ通訳は業務を果たせなくなって黙るか適当に誤魔化すかで終わるそうです。雇う側は結局先方が何を言ってくれていたのかを理解せずに商談が終わるかするのでしょうが、プロの通訳を雇っていればこういうことは起こりません。

 翻訳も同じです。その昔、僕の仕事が手一杯で知り合いのエージェントに頼みました。「新人に頼んでみます」と伝えてきて、その方に訳してもらったのですが、まあ、ひどい。内定通知書のことを「雇うためのお手紙」とか書いてきたので40ページあったその翻訳案件を自力で1日で仕上げたことがあります。全く商品にならないのにお金を請求してきたのには閉口しました。

 さて、単に英語や他の外国語が少しできた程度では通訳翻訳は務まらないのです。プロ向けの通訳の学校もあるので、相当勉強しない限りは通訳にはなれないのですが。

 通訳では、話されている方のニュアンスも汲み取って伝えなければなりません。それはなかなかローカルでは難しく、また、故事名言を使う方もいたりして、こういった場合は日頃どれだけ日本語の本を読んでいるかが試されるときでもあります。前に武田信玄の名言を言われたときは大変困り、勉強がまだ僕には足りないなあと反省したことがあります。

 また、翻訳ができる方が通訳ができるとは限りません。ここも勘違いしてる方が多いのですが、両方できる人は意外にいなかったりします。さらに、専門分野もあり、僕の場合は化学や医療関係、経理はできません。そういったことも理解せずに、やる側も雇う側も無知であるが故に商談が全く成立しないどころか相手を怒らせて破談するということにもつながります。

 今は自動翻訳通訳がでてきていますが、それで事足りると考えている方もいるかも知れません。

 しかし、AIは言葉として無機的に訳すことはできますが、その人間が発した言葉の行間までは読むことができません。つまり、人の感情までは自動翻訳では読みきれないのです。忖度はできません。政府間の会議でも自動通訳ではなく、必ず人が通訳するのはそのためです。どんなにAIが優れるようになってもおそらく、人間の感情までは読み切れないでしょう。なので、通訳翻訳という仕事はなくなるということはないとは思います。

 翻訳は確かにAIで対応できるようになってきていますが、やはり行間を読むことは難しい。また、素人が使うのもありですが、その言語をまともに知らないのであれば、重要な書類や指示を自動翻訳でやるのはやめたほうがいいです。そういう方に限って、原文の日本語をまともに書けない人も多く、ぐちゃぐちゃになった英語を伝えて、結局「どういう意味なのですか」とローカルが聞いていたケースを僕は何度も遭遇しています。

 通訳翻訳業務はとても奥が深い。それはやらないとなかなかわかりませんが、少なくとも一つのしっかとした業務として成り立っているので誰でも安易にできるとは思わないようにしてください。



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