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服装からみるマレー半島東海岸

 イスラームの保守層が多いマレー半島ではクアラルンプールなど西海岸ではみられない服装を着ている人たちがいます。どういった服装なのでしょうか。

男性
 マレー人の男性の正式な伝統正装は「マレー服(Baju Melayu)」と呼ばれるものです。下はスラッとしたパンツのほかサロンを腰の周りに巻きます。上は襟のない長袖で、いずれも材料はコットンまたはポリエステとコットンの合成が主に使われます。色はさまざまですが、公式行事などでは黒を着るのが一般的。腰巻きであるサロンは寝るときや礼拝のときにも使います。

 頭には黒い帽子ソンコッ(Songkok)をかぶります。東南アジアのイスラーム教徒男性がかぶる帽子で、インドネシアではペチとも呼ばれます。由来はトルコの帽子。オスマン帝国時代に東南アジアに持ち込まれたとされていますが、はっきりとはわかりません。ただ、19世紀前半にはソンコッについて記録があることから、この時代にはすでに使われていたようです。クランタン州の公務員は木曜日は黒のソンコッの着用が義務付けられています。

正式な「Ba ju Melayu」

 さて、これはクアラルンプールでもみかける服装ですが、東海岸でよくみられるのは、中東の白い長い服を着ている人たち。またそれに似た服を着用している人もいます。

 これは「トーブ」と呼ばれるもので、膝下までの長いもの。アラビア世界での伝統的な衣服です。頭には白いターバンを巻いていますが、ときおり首の後ろまで布が垂れ下がっている「クーフィーア」を着用している人もいます。これらは宗教学校では制服ともなっているようです。

「トーブ」を来たムスタパ現首相府相


 こういった服装を着てオートバイに乗っている人をよくみかけるのです。頭はターバンを巻いていてヘルメットは着けていません。危ないといえばそうなのですが、彼らは気にしないようです。警察も発見してもおそらく何もいわないのでしょう。都市の中でもよく見るのですが、少し田舎に行くとさらによく見かけます。

朝に子どもを送りに行くおっさん


 思うにおそらくこの人たちは下着は着けていないようです。完全なワンピース型で脚の付け根まで布が覆うので簡単にはめくられません。トイレに行くときは、下から布を引き上げる感じで座ってするのです。そもそもこの服装で尿をするときの男性用便器ではできないので、必ず個室に入るようです。そもそも尿向けの便器で用を足すという設定はこの服ではされていなかったのでしょう。つまりは近代以前の服ということになります。

 中東ではこういった服をよくみかけますが、マレーシアではおそらく東海岸でよくみられるので、服装からもイスラーム色が強いというのが伺えます。

 イスラームでは肌を露出してはいけないことになっているのですが、東海岸ですと男性でも短パンを穿く人は少ない。特に公の場(モールなど)では若い人でも短パンは穿きません。クアラルンプールでのマレー人はみな平気で穿いていますが、実は男性も肌を露出させてはいけないのです。

宗教学校の制服。こういったのを着ていても違和感がないのが不思議なところ


 クランタン州やトレンガヌ州では短パンを穿いているだけでマレー人男性は摘発されます。罰金とお説教の講習があるのですが、イスラーム法が適用されるため、こういうことになるのです。

 また、感覚的に「短パンを穿く人」=不良という精神的構造がどうもここにはあるようです。僕の世代だと昔、中学校時代に男子生徒が「ボンタン」を穿き始めると不良とみた、あの感覚のようです。このため、この2州でマレー人が短パンを穿いているところはあまり見ません。モールですと、短パンを売ってはいますが、これは華人向けなのかマレー人でも自宅で穿く用なのかわかりませんが。

 ちなみに、マレーシアでは政府や大学など公共の場で短パンを穿いて入館することは禁じられています。サンダルもダメです。これは宗教に関係なく規定されているので、気をつけましょう。

女性
 さて、女性のほうです。 

 マレー人女性の伝統正装は「バジュ・クルン(Baju kurung)」と呼ばれます。スカートとブラウスで腕や足を隠し、身体のラインをはっきりと見せないスタイルの衣装。マレーシア国内でも地域ごとに特色があります。

女性の「Baju kurung」

 イスラームで女性は顔と手以外を隠し、近親者以外には目立たないようにしなければならないことになっています。特に保守的なイスラーム社会では女性は頭をふくめた体を隠す服装を着用していることが多い。

 クランタン州やトレンガヌ州ではときおり「アバヤ・ニカブ」と呼ばれるアラビア半島の伝統的な民族衣装を着ている人がいます。黒い布で目と手足の先以外をすべて隠しているおり、忍者のようです。メガネだけが見える人もいます。

中東のアバヤ・ニカブ


 また、アフガニスタンの民族衣装である「ブルカ」を着ている人もときおり見かけます。これは全身にまとっているうえ、目の部分も網状になっていて完全に隠す女性向け服装です。20年前に東海岸に来たときはどこもかしこも全身を黒づくめにして覆っている人をよく見ましたが、ここ数年はだいぶ減った気がします。これだと誰が誰なのかさっぱりわからないと思いますが。。。

アフガニスタンの「ブルカ」(Wikipediaより)


 マレーシアのマレー人女性の多くは通常、トゥドゥン(またはヒジャブ)と呼ばれる頭、耳、首を隠すスカーフをかぶっています。一枚の布でできており、種類はいくつかあります。巻き方にとって呼ばれる名称があるようで、女性はそれを結構気にしているようです。最近ではマスクも着用しないといけないことになっていますが、たいがい長いひも(?)をトゥドゥン上にかけてマスクをするようにしています。

 服装からみても東海岸はなかなか保守的なところがあります。こういった姿でクアラルンプールを歩くとかなり目立つのですが、東海岸ではほとんど違和感がないのが面白いところ。周りの環境が保守的だと服装もそれにあったものになるのでしょう。逆に男性でネクタイをして背広を着るとかなり目立つところでもあります。服装一つとってもなかなか面白いものです。

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