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企業のサブカルチャー問題について

 株式会社エスノグラファーの神谷俊です。

 最近、組織文化に関する案件相談が増えています。組織文化が薄れていることを懸念する声が増えている印象です。とくにテレワークを主軸にしている企業から次のような相談が多い感じがしています。

業務には支障ないが、現場のカルチャーに「分断」が起き始めていて心配。
 現場の考え方が「多様化」しているけど、問題ないのだろうか。

 「何か違和感をおぼえていて、コンフリクトも発生しているけど、それが問題なのかまではよくわからない」という状態にあるようです。

 今回は、サブカルチャーという概念を踏まえながら、このような状況についてちょっとだけ具体化を促すような情報提供をしてみたいと思います。

企業におけるサブカルチャ―とは

 組織のなかには、複数の文化があります。

 組織全体に織り込まれている組織文化(全体を統一する最も大きなサイズの文化:以降、わかりやすくメインカルチャーと表現する)の他に、複数のサブカルチャーが存在すると言われています(Brown,1995)。

 たとえば、創造性重視のメインカルチャーを持った組織のなかでも、管理部門は規則正しく、正確性重視のサブカルチャーを持っていたり、営業部門は顧客主義が色濃いサブカルチャーを併せ持っていることはよくあります。

 このようなサブカルチャーは、メインカルチャーとの関係から主に3つに分類されます(Martin and Siehl, 1983)。

(1)強化型
:メインカルチャーの特長をさらに強化する性質を持ったサブカルチャー。

(2)共存型
:メインカルチャーとは異なる特性を持っているが、特にポジ・ネガのいずれの影響も生み出さないサブカルチャー。

(3)カウンター型
:メインカルチャーが支持する正統性を否定するようなサブカルチャー。

 サブカルチャ―のなかにも「強化型」のように、組織にとって有益なサブカルチャーもあります。一方で、「カウンター型」のように、組織にとってはリスクを生み出すようなものもあります。

 重要なことは、「分断」や「多様化」を引き起こしているサブカルチャーは、どのような特性を持ったサブカルチャーなのか?を見極めることです。(「強化型」「共存型」だから全く問題ないというわけではありませんが)とくに「カウンター型」の発生には注意が必要です。

 カウンター型が育ちすぎると、組織は内部分裂のリスクを抱えます。反抗的なサブカルチャーのもとに、派閥やグループが生まれます。そのなかで、現在の経営者に対する愚痴や不平不満がでてきたり、既存の業務プロセスや指示内容が、いかに「イケていない」かを批判するような言動が生まれてくる。その結果、組織全体を統制する能力が低下します。レポートラインが充分に機能しなくなったり、管理者同士の対立などが生まれ、協働性が失われたり、部門間の調整コストが過剰に増えるといった問題が発生します。

「カウンター型」が生まれるとき。

 では、どのようなときに注意が必要なのでしょうか。組織内のパワーバランスが変化するとき、「カウンター型」が育つというケースが多いようです。例えば、次のような事象が発生したときです。

経営への評価の低下

 環境変化に対して組織の意思決定が遅かったり、業績の悪化を食い止められなかったりして、現行の経営陣への評価が低下するときです。組織の影響力が低下し、現場は既存とは異なる価値観を尊重しようとしてサブカルチャーへの「乗り換え」が始まってしまいます。

新アプローチの台頭

 また、新たな知識・価値観が現場に「輸入」されるときも注意が必要でしょう。現場の抱えている不満や問題を軽やかに解決してくれるアプローチが現場に導入されると、現場はそれを積極的に活用するようになります。その結果、仕事のスタイルやプロセスが変わり、評価軸が変わっていく。そして、評価軸が変われば、価値観も変容していきます。

既存の組織文化の形骸化

 MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)として提示される内容が「スローガン」のような位置づけになり、従業員の言動との連関性が見られない場合です。例えば、経営層がMVVに言及する機会が減ったり、MVVとは相反する意思決定を繰り返しおこなったりする場合です。あるいは、他者との接触機会が減り、既存の組織文化を知覚する機会がなくなってしまう場合なども形骸化は進みます。表層的になってしまったメインカルチャーに代わって、現場の実働を支えている価値観が台頭し、メインカルチャーを上塗りしていきます。

 テレワークを主軸にしている企業は、特にこれらの傾向が強いのかもしれません。サブカルチャーの台頭を意識しつつ、既存のカルチャーの形骸化を防ぐ取り組みが求められます。組織文化を戦略的にリマインドさせたり、再度浸透を促すような取り組みが必要でしょう。


シンボルは機能しているか。 

 「カウンター型」の過剰な芽生えを抑えるためには、メインカルチャーの存在を示していく必要があります。「カウンター型」は組織の存在感や組織に対する期待感が薄れることによって発生してくるためです。

 あらためて、組織が目指す方向性を掲げ、組織の考えを語り、重視する価値観を提示していく必要があるでしょう。

 このように、組織文化をメンテナンスしていくときに重要なものが2つあります。1つは、シンボル(象徴)です。

 言い換えれば、自社らしさを表すものですね。目を凝らすと、組織には実に多くのシンボルがあります。例えば、経営者や名物社員、危機を乗り越えた際のエピソード、自社を代表するようなプロジェクト、定期的に開催されているイベントなどです。これらのシンボルを知覚することによって、社員は組織文化のイメージを形成し、その重要性を理解することができます(Deal & Kenedy ,1982)。

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 また、メンテナンス時にはリアルな「場」が求められます。社員が物理的にその場に参加していることを実感させたり、組織のシンボルを分かち合っている感覚を共有させるためです。

 オンライン環境でいくら情報提供しても、組織に属する他の社員がそのシンボルを大切にしている姿が見て取れなければ、従業員はその価値観の重要性を理解することは難しくなります。言葉で伝えても、その言葉を上司や同僚がどのように解釈しているのかが見えなければ、「スローガン」になてしまうかもしれません。

 シンボルとリアルな「場」が重要です。定期的に集合して「組織」や「集団」を感じながら、シンボルをみんなで共有する機会が必要です。「私たち」を主語にして方向性を共有したり、「みんな」がどういった価値観を重視しているのかを改めて意識させる「場」が必要なのだと思います。

余談ですが、そういえば以前、Think Lab.井上一鷹さんが弊社のイベントにきてくれたときに「オフィスは『教会』としての機能を備える必要がある」ということを言っていました。同じビジョンや価値観でつながっている仲間であるという意識をあらためて喚起する「場」として、オフィスの必要性を説明していました。オフィスをどう使うのか?は、組織文化を整えるうえでも重要ですね。

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(補足1)組織文化とは何か?

例えば、組織のなかで共有されている信念や価値観、世界観といったものです。経営学では、従業員の活動や意思決定に影響を与えるものとして研究されてきました(Schein,1985a)。組織が何らかのインパクトを受けて、組織文化が変質すれば、組織のなかの活動は影響を受けて変わる可能性がある。仮に、創造性を重視する文化が、業績至上主義の文化へ上書きされてしまえば、従業員の活動は新規の価値創造から「いかに稼ぐか」に重心を置いた活動を積極的に進めていくことになる。


(補足2)組織文化の利点は何か?

組織は、制度や規律・ルールを設けずに組織内の活動をコントロールできるようになる。何が正しくて、何をしてはいけないのか。その判断基準をある程度すり合わせることができるために、甚大な被害を及ぼすトラブルを回避することができる。いちいち制度、規律やルールを構築して、これらを回避するアプローチもあるが、規律を増やし過ぎれば組織は良くも悪くも「優等生」になってしまう。手段が目的化したり、前例を破れなかったりして、組織は脆弱化しやすい。


参考文献:
Schein, E. H. (1985a). Organizational Culture and Leadership,San Francisco. : Jossey-Bass. (清水紀彦・浜田幸雄訳『組織文化とリーダーシップ』
ダイヤモンド社, 1985.)
Brown, A D. (1995). Organizational culture. London: Pitman Publishing.
Deal, T. E., & Kennedy, A. A. (1982). Corporate cultures. Reading, MA: Addison-Wesley.
Martin, J. and Siehl, C. (1983). Organizational culture and counterculture: An uneasy symbiosis. Organizational Dynamics, 122, 52-65




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