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本の紹介 『デザインリサーチの教科書』

 みなさんは、新たなアイディアを生み出し続ける人たちが使っている「デザインリサーチ」をご存知ですか?

 本書における「デザインリサーチ」とは、変化が激しく未来を予測するのが難しい現代において、新しいビジネスをデザインするための体系的なリサーチ手法を指します。ビジネスの世界の「デザイン」とは単なる意匠ではなく、ビジネスを包括的に設計していく広義の意味です。世界中で活用されている「デザイン」の考え方や手法を使い、様々なステークホルダーと一体となって良質なビジネスアイディアを生み出していくのです。

 そんなデザインリサーチを、わかりやすく学べる本が『デザインリサーチの教科書』です。本書は、具体的な事例や実践に役立つツールも詳しく紹介されており、活用しやすい1冊です。

主な内容

1. ビジネスや社会における「デザイン」の重要性が増している

 「デザイン」という言葉は、日本ではモノの見た目や形というイメージが強いのではないでしょうか? 一方欧米では、デザインは幅広い意味で使われています。商品やサービスの顧客体験から会社や官公庁での組織作り、大きな目的を達成するための仕組みの企画・設計もがデザインが担う領域です。そして、デザインが担う領域は年々大きくなっています。

 そんな中、2018年に経済産業省および特許庁が発表した「デザイン経営」宣言を皮切りに、日本でもデザインへの関心が高まってきています。

 ビジネス課題に直面した時、多くのデザイナーは、デザインリサーチの考え方や手法を使って、様々な情報を集め、整理し、知見を見いだし、アイディアを創出します(下図)。単にプロダクトをデザインするため、あるいは意思決定を支えてプロジェクトを前に進めるため、新規事業を創出するため、あらゆるビジネスの場面で「デザイン」がより良いアイディアを生むのです。

2. デザインリサーチの手順:10のプロセスをツールや事例を含めて解説(詳しくは書籍で)

  1. デザインプロセス
     多くのデザインプロジェクトでは、発散と収束を繰り返してアイディアをブラッシュアップしていきます。それらは4つのDのステップ、Discover, Define, Develop, Deliver に分けられます。Discover はインタビューや観察などで情報を集めるフェーズ(発散)。Define は集めた情報を整理して機会を見つけ出すフェーズ(収束)。Develop はアイディエーション(アイディアを発想し、出し合い、精査していくこと)を通して機会に対する様々なアプローチを見つけ出すフェーズ(発散)で、Deliver は様々なアイディアを整理して特定のソリューションを作り上げるフェーズ(収束)です。(p.102)

  2. プロジェクト設計
     プロジェクトの結果、達成したいこと(アウトカム)と成果物(アウトプット)を明確にした上で、実施スケジュール、予算、チーム構成を決めます。これらの項目については、あらかじめステークホルダーとすり合わせを行っておきます。

  3. チームビルディング
     プロジェクトの成功に向けて、チームが最大限パフォーマンスを発揮できるようにするため、例えば Tuckman モデルを参考に、メンバーが同じ方向を向いて成果を出せるようにチームを成長させていきます。一つの方法としては、個々人の価値観をすり合わせるためのいくつかの問いを用意し、メンバーと共有するワークショップなどを企画します。発表内容をもとにチームのルールを作り、チームとしてのゴールやプロジェクトで何を得たいかについても確認を行っていきます。

  4. リサーチ設計
     プロジェクトの背景を確認し、デザインリサーチの目的を定めます。デザインリサーチの大まかな流れは、調査→分析→機会発見→検証→ストーリーテリングです。目的を達成するために、どのような手順でどのようなことをするとよいかについて考え、整理していきます。

  5. 調査
     インタビュー、観察、ワークショップ、定量調査を通して、実際にデザインリサーチを実施していきます。それらの手法はフォーマットとして体系化されており、書籍の中で詳しく紹介されています。

  6. 分析
     例えば調査に基づいた新しいプロダクトを提供するといった、ビジネスの「機会」を特定するため、これまでに得られた様々な情報を精査していきます。異なる視点と対話による理解を深めるために、複数人で行うとよりよい分析を行うことができます。本書では、ダウンロード(情報を整理しチーム内で共有)、テーマ作成(分類)、インサイト抽出、機会発見(How Might We作成)といった手順を提案しています。

  7. アイディエーション
     分析結果を参考に、ブレインストーミング等の手法を利用してソリューションのアイディアを出していきます。特にデザインリサーチでは、解くべき問いを定義して、コンセプトを見いだすための一連の流れの中でアイディアを発散させていきます。

  8. コンセプト作成
     リサーチを通して得られた知見をステークホルダーに伝えるため、アイディアをより具体的な形で検証するための「コンセプト」を作成します。これらも、コンセプトマッピングのテンプレートなどを活用することができます。

  9. ストーリーテリング
     アイディアの実現に向けた後押しをするために、インサイト(How Might We)、解くべき問い、問いに対するアプローチの例(コンセプト)、人々を理解するための情報(ペルソナやカスタマージャーニーなど)を整理し、リサーチプレイブックと呼ばれるドキュメントにまとめてステークホルダーに伝えます。

  10. プロトタイピング
     ここまでで導き出されたソリューションは、本当にユーザーにとって価値があるか、実現可能か、持続可能かといった仮説を検証します。アイディアに対していくつかの質問を投げかけたり、ペーパープロトタイピングなどの手法を通して、アイディアの妥当性を検証していきます。


3. デザインリサーチの運用:継続的にアイディア・ビジネスの価値を高め続けるための仕組みづくり

 現代におけるビジネスのアウトプットは、明確な完成を持たないということが少なくありません。例えばデジタルプロダクトであれば、商品が顧客の手に渡った後に継続的にアップデート手段が用意されていることがよくあることからも分かります。このようなプロダクトをより良くしていくため、投資対効果を最大化するためにも、継続的なデザインリサーチを実施していくことが重要となってきます。

 書籍ではこのような内容が詳しく、わかりやすく解説されています。1冊手元に置いておきながら、仕事や実生活の中で生かすリファレンスとしても使い勝手が良いかと思います。

第5刷も準備中とのこと。著者の木浦さん@kurの発信も要チェック!


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