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とまどいと偏見2019

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2019年に劇場で観た映画の感想です。
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家族を想うとき

家族を想うとき

2006年の『麦の穂をゆらす風 』と、2016年の『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2度のカンヌ映画際パルムドールに輝いているイギリスの巨匠ケン・ローチ監督が、引退を撤回してまで作った(まぁ、引退撤回は2度目らしいんですが。)、世界的に拡がる格差とその構造をフランチャイズという搾取のシステムを通して描いた最新作『家族を想うとき』の感想です。

2019年最後に劇場で観た映画なんですが、ある意味20

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この世界の(さらにいくつもの)片隅に

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

2016年に公開されてから途切れることなく上映され続けて来た、こうの史代さん原作の漫画を片渕須直監督がアニメ映画化した『この世界の片隅に』に、約38分(250カット以上)の新エピソードを追加して製作された長尺版。完全版とか新解釈版とも違う、ほんとに言うなれば"さらにいくつもの"版というところでしょうか。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の感想です。

えー、3年前の11月に公開された『この世

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スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け

スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け

えー、EP7から始まる3部作の最終話ということだけでなく、42年前に公開されたEP4 「新たなる希望」から続くスカイウォーカー家の物語がここで終結するということで。まずはホントに終わるのか?という気持ちで観に行って来ました。「スターウォーズ EP9 / スカイウォーカーの夜明け」の感想です。

はい、ということで注目度が高い上に、ある種宗教的に崇拝(そこが「スター・ウォーズ」の面白さでもあるんです

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ドクター・スリープ

ドクター・スリープ

えーと、僕にとって「シャイニング」と言えば、スタンリー・キューブリック監督が撮った映画版の方で、スティーブン・キングの原作は読んでもないんですね。で、映画版「シャイニング」をキングが嫌っていたことは有名な話で(後々自分でテレビドラマ版を製作してるくらいなんですが。)。つまり、今作の監督にとって、鬼才キューブリックの傑作ホラーの続編というプレッシャーに加え、続編として原作はあるのだから自ずとキング風

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殺さない彼と死なない彼女

殺さない彼と死なない彼女

えー、普段なら完全にスルーしてる映画です。ネットなんかの評判が良いので観たんですが、これ、小林啓一監督なんですね。じつは僕、小林監督の長編デビュー作「ももいろそらを」って映画大好きなんです。はい、ということで、もともとはツイッターに投稿した4コマ漫画から人気になった原作を小林啓一監督が脚本監督した「殺さない彼と死なない彼女」の感想です。

映画は割と何でも観る方なんですが、唯一観てないのが、今、流

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ひとよ

ひとよ

子供たちに暴力を振るう父親を殺した母親が刑期を終えて15年振りに家族の元へ帰って来るという話。「凶悪」や「日本で一番悪い奴ら」や「虎狼の血」の白石和彌監督なので、メンタルやられる系の重い話なんだろうなと思って観たんですが、全然違いました(もちろんエグくて重い話ではあるんですけど。)。映画観ながらこういう感じの映画知ってるんだよなぁと思ってたんですが、一番近いのは「男はつらいよ」シリーズなんじゃない

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ブライトバーン 恐怖の拡散者

ブライトバーン 恐怖の拡散者

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」監督のジェームズ・ガンが、過去に児童への性的虐待をネタにしてツイートしたこと(後に反省し謝罪済み。)が問題となりディズニーを解雇されてる間(こちらも出演者たちの懸命な擁護により「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3」の監督として再雇用となりました。)に制作した、"もしも、スーパーマン的能力を持った子供がいたら…"的ホラー「ブライトバーン 恐怖の拡散者」の感想で

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CLIMAX クライマックス

CLIMAX クライマックス

「LOVE 3D」以来のギャスパー・ノエ監督作。今回は明確にホラーだったと思います。ラース・フォン・トリアー監督の新作「ハウス・ジャック・ビルト」もホラー的だったし、両監督共その前はSEXが題材になってたしで、いろんなテーマで人を不快にさせ続けてるふたりですが、追い掛けてるものに何か共通するものがあるんでしょうかね。雪深い山の中の廃墟で行われたとあるダンスチームの打ち上げパーティーが地獄と化して行

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ボーダー 二つの世界

ボーダー 二つの世界

スウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストさん。2008年に公開(日本公開は2010年)された映画「ぼくのエリ 200歳の少女」の原作の人なんですけど、この映画がとても好きで(2010年に公開された映画で一番好きかもしれません。)。その人の原作ということで観に行って来ました。「ボーダー 二つの世界」の感想です。

えーと、「ぼくのエリ 200歳の少女」がどういう話だったかというと、80年

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ジョーカー

ジョーカー

前々回感想書いた「惡の華」と、前回感想書いた「宮本から君へ」、そして、今回の「ジョーカー」と、じつはこの3本ほとんど同じ話なんですよね。どれも社会に受け入れられなかった男がキレるまでを描いている話で、「惡の華」は10代の思春期を、「宮本から君へ」は20代の青春期を描いていましたが、今回の主人公のアーサー・フレックは40代(? 30代かな?)の思春期も青春期も通り過ぎてしまったおっさんで、それでも上

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宮本から君へ

宮本から君へ

とにかく凄い熱量というか圧というか。この人間の発する圧みたいなものが苦手で、原作を読んだ当時の僕は宮本のことを受け入れられなかったんです。なんですけど、この新人営業マンが奮闘するってだけのストーリーにもの凄い惹きつけられもしたんですよね(それはもう時間を忘れて読み耽るくらいには。)。その理由が一体何だったのか、今回の映画で少し分かった様な気がしました。前回感想を書いた「惡の華」に続いて青春のエモー

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惡の華

惡の華

風邪ひいたり仕事や家の用事が立て込んだりでしばらく映画館へ行けてない間に観たい映画が渋滞してきてしまった(そして、今後更に増える予定な)ので、一度に2本観られる日は観ようと思い、どうせなら続けて観て意味のあるラインナップでということで。どちらも漫画原作で特殊な恋愛の形を描いた物語の上に、片や青春の始まりの"思春期"を、そして、もう一方は青春の終盤としての"結婚"を描いている「惡の華」と「宮本から君

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フリーソロ

フリーソロ

命綱なし、自分の手足のみで断崖絶壁を登りきるという、正に死と隣り合わせのクライミング・スタイルのフリーソロ。その第一人者であるアレックス・オノルドさんの常人にはまるで理解出来ない挑戦と、そこまでの淡々と過ぎる日常(それがまた狂気を感じさせるんですが。)を追ったドキュメンタリー映画「フリーソロ」の感想です。

えーと、狂ってることを狂ってると、それを何か良きものとしてまとめたりしてない誠実な映画だっ

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us アス

us アス

えー、ジョーダン・ピール監督です。デビュー作の「ゲット・アウト」(「ゲット・アウト」の感想。)一作で完全にそれまでのホラー映画の流れを変えた人なので、その監督の新作となれば、そりゃもちろん観ますし、当然期待値も爆上がりしてるわけです。結果。冒頭、雷鳴轟く真夏の夜、遊園地が併設されたビーチに、「スリラー」のTシャツを着て大きなリンゴ飴を持った黒人の少女が立っている。もう、その絵だけでやられました。「

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