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本当の喜びは「いま、ここ」にある - 作られた欲望と本質的な幸せについて


年始のショッピングモールで、ふと立ち止まって考えさせられることがありました。本屋の棚には「より良い自分になる」ための本が並び、店頭には「理想の生活」を実現する商品が所狭しと陳列されています。そこには巧妙に設計された欲望喚起の仕掛けが張り巡らされ、私たちの「なりたい自分」への願望を刺激し続けています。

売り場をゆっくり歩いていると、その仕掛けが見えてきます。「今年こそ」「たった30日で」「確実に」—そんな言葉が、商品のパッケージや広告コピーに踊ります。フィットネス機器は「理想の体型」を約束し、ビジネス書は「成功者への道」を示唆し、インテリア雑貨は「憧れのライフスタイル」を演出します。それらは全て、私たちの「不十分さ」を密かに刺激しながら、その解決策を提示しているのです。

しかし、その光景に違和感を覚えたのです。私たちは本当に、その「なりたい自分」に向かって走り続けることで幸せになれるのでしょうか?

作られたストーリーの中で生きる私たち

現代社会において、私たちの多くの欲望は巧妙に作られたものです。マーケティング戦略として綿密に設計されたストーリーが、私たちの心に潜在的な欲求を呼び起こします。「より良い暮らし」「理想の自分」「成功した人生」—これらの物語は、私たちの行動を特定の方向へと導くように作られています。

例えば、スマートフォンの新製品発売時を思い出してみてください。製品の機能的な価値以上に、「新しいライフスタイル」や「先進的な自分」というストーリーが、私たちの購買意欲を刺激します。SNSでは「理想の日常」が切り取られ、それが新たな欲望を生み出す素材となっています。

サイモン・シネックが提唱したゴールデンサークル(WHY-HOW-WHAT)の考え方を借りれば、私たちは常に大きな「WHY(なぜ)」によって動機づけられています。しかし、その「WHY」自体が、実は作られたものかもしれないという疑問が生じるのです。

本質的な喜びの発見

一方で、子供と遊ぶ時間の中で、まったく異なる種類の喜びに気づかされます。ベイブレードを回し、その動きに夢中になる瞬間。そこには作られたストーリーも、目指すべきゴールもありません。ただ、目の前の出来事に完全に没入する純粋な楽しさだけがあるのです。

仕事においても同様の経験があります。先日、新しいプロジェクトのアイデアが突然閃いた時のことです。メモを取り始めると、気がつけば3時間が経過していました。チームメンバーとアイデアを共有し、それを具体的な計画に落とし込んでいく過程。問題点を見つけ、解決策を考え、より良いものに磨き上げていく。その時間は、まるで「流れ」の中にいるかのような充実感に満ちていました。

同僚とイベントを企画した時も、同じような体験をしました。企画書の作成から、関係者との調整、当日の運営まで、確かに大変な作業の連続でした。しかし、チームで知恵を出し合い、問題を一つずつ解決していく過程には、純粋な面白さがありました。目標達成はもちろん嬉しかったのですが、それ以上に、その過程で感じた一体感と創造の喜びが、かけがえのない経験として心に残っています。

「いま、ここ」にある幸せ

この気づきは、私たちの幸せについての重要な示唆を含んでいると考えています。本当の幸せは、遠い未来の目標や、作られた理想像の中にあるのではありません。それは、目の前の出来事に真摯に向き合い、没入する瞬間の中にあるのです。

それは、時として子供との遊びであり、創造的な仕事の瞬間であり、仲間との協働の過程かもしれません。そこでの集中と没入は、どのような文脈で生まれたものであれ、それ自体が本質的な価値を持っています。

例えば、新しい技術やツールを学ぶ時を考えてみてください。「キャリアアップのため」という外的な動機で始めたことかもしれません。しかし、実際に没頭して取り組んでいる時の喜びは、そうした目的を超えた純粋なものではないでしょうか。

新しい幸せの探し方

これは決して、目標を持つことや自己成長を否定するものではありません。むしろ、その過程自体に価値を見出し、楽しむことの重要性を示唆しています。作られた欲望に振り回されるのではなく、目の前の瞬間に真摯に向き合い、そこにある喜びを見出す。それが、より豊かな人生への一つの道筋なのかもしれません。

私たちに必要なのは、遠い理想を追い求めることではなく、「いま、ここ」での体験の質を高めることなのです。それは、仕事での創造的な瞬間であれ、家族との時間であれ、目の前の出来事に心を開き、没入することから始まります。

具体的には、日々の仕事や活動の中で、「この瞬間に何を感じているか」に意識を向けてみることから始められます。目標に向かって進むことは大切ですが、同時にそのプロセスでの発見や学び、人とのつながりにも目を向けてみる。そうすることで、日常の何気ない瞬間にも、新しい価値が見えてくるかもしれません。

そして、その瞬間瞬間の積み重ねこそが、本当の意味での充実した人生を作り出していくのではないでしょうか。この気づきは、私にとって新しい価値観の扉を開いてくれました。皆さんも、日々の生活の中で、「いま、ここ」にある喜びに目を向けてみてはいかがでしょうか。

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