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高3の失恋

 「世の中に存在するカップル、夫婦の数が多すぎる」。小学生の頃から不思議に思っていたことだ。例えばAがBを好きになる。この現象は理解できる。だが、同時期にBもAを好きになる。そんな都合の良い両想いの発生は、かなり低い確率に思えるのだ。Aが、Bの気を引かせるべく全力でアピールする場合も多いと聞く。僕も頑張ったが、アピールに惹かれる人はゼロ。ゾッと引かれるばかりだった。23年の人生で僕に想いを寄せてくれたのは1人しかいない。

 華々しい恋愛とは無縁の男に転機が訪れたのは高3の4月中旬。高校に入学したばかりの女子と知り合ったのだが、僕を見つめる彼女の瞳が異様にキラキラしていた。少女漫画のヒロインみたいな輝き。目薬『NewマイティアCL』のCMに出演できそうな潤い。何かが始まる予感がした。

 4月末の剣道大会で団体戦の大将を任された僕は、対戦相手の強豪校をなぎ倒し、チームを逆転勝利に導いた。2か月前の練習試合で「0勝11敗」だった男の大金星。試合を終えて顔から防具を取ると、あの潤んだ瞳が現れた。
「カッコよかったです!」
瞳の輝きMAX。『NewマイティアCL アイスクラッシュ』レベル。あまりにも眩しすぎた。また、帰りの電車で、金星を挙げた試合の動画をチェックすると、彼女が祈りながら応援する姿が映っていた。僕は、この日の一連の出来事を「アオハル」と呼んでいる。

 その後も、彼女はいろんな場面、いろんな媒体で愛を伝えてくれたが、なぜか好きになれなかった。残念なことに、彼女の良さに気づけたのは、会わなくなって数年経ってからだった。「モノの大切さはそのモノを失ってから気づく」という現象に近い感覚だ。後の祭りではあったのだが、彼女は一軍のお相手と一軍の恋愛ができる一軍の女性。五軍補欠メンバーの僕とはどうやってもつり合わない。今となっては、女性に好かれるという、僕にとって最初で最後の経験を与えてくれた彼女に対して感謝の気持ちしかない。

 僕は元々恋愛が生まれやすい境遇を経ている。小学校から大学まで共学で、しかも7度の引っ越しを経験した転勤族なのだ。
「男子校出身だから恋愛が苦手」、
「転校生はモテる」、
「人生のモテ期は3回」。
こういった通説の反証はわが人生。
両想いに縁のない「0勝11敗」の人生を歩んでいる。

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