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第3話Part3

 教室に入ってきたのは、クラスメイトの碧月りんねだった。りんねは、まつりとレザンを見つけると驚いたように目を丸くした。

「あれ、桜宮さんと和泉くん、まだ残っていたの?」
「ポムッ……!」

 りんねの視界に入るか入らないかのすんでのところで、ポムが鞄の中に潜り込む。しかし、その声はりんねの耳に届いてしまったようだった。

「あら、何の音かしら?」

 不思議そうに耳をすませるりんねに、レザンは慌てる様子もなくさらりと口を開く。

「音? 気のせいじゃないかな。何も聞こえなかったよ。ね、まつり?」
「うんっ、全ッ然、何にも聞こえなかったッ!!」

 まつりの方の演技はお世辞にも自然体とは言えなかったが、何故かりんねには気にならなかったらしい。「そう? じゃあ気のせいね」と流すと、彼女は時計をちらりと見て二人に話しかけた。

「ところで、二人とも部活の時間は大丈夫なの?」
「ああ、本当だ、そろそろ行かなきゃ」

 りんねの視線を追うように時計をに目をやったレザンは、慌てて席を立ち上がる。鞄の開け口からポムが見えないよう、さり気なく手を翳して隠すと、そのまま扉の方まで歩いていった。

「教えてくれてありがとう、碧月さん。じゃあね、二人とも。また明日」
「うん、また明日」
「ばいばーい!」

 手を振りながら、レザンが廊下に出ていく。教室の中には、まつりとりんねの二人だけが残された。