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第3話 Another side 1(小説版限定ストーリー)

「おとうさま、みてみて! おだんごなの!」
 暖かな陽ざしの中、自分に向かって幼く丸い手が伸びる。六つになる娘のリーラを抱きかかえてやりながら、ノルベールは「お」と声を漏らした。
「その髪、新しい結び方だな。可愛いぞ。お母様にしてもらったのか?」
「ううん、おにいちゃんによ!」
 無邪気に笑う娘の答えを聞いて、ノルベールは目を丸くする。自分とよく似た鋭い目付きにぶっきらぼうな態度、同性の友人とは日が暮れるまではしゃいでいるが、異性を目の前にすると途端に不器用になってしまう息子が、こんなに繊細に髪を結う事が出来るのか。
「そうか。ソンブルは良い子だな。今どこにいるんだ?」
「おにいちゃんは、おかあさまと一緒に反対側のお庭でおさんぽしてるの! 今日はおかあさまの体の調子がいいから、色んなお花をみせてあげたいんだって。おとうさまも呼んで来てって言われたの!」
「じゃあ、私たちも今から、お母様達の所へいこうか」
「うん!」
 ふくふくとあたたかい小さな命を抱えて、ノルベールは歩き出す。香り高き花々、行く先を照らす陽光、幸せだったあの日々。

 今はもう、戻っては来ない。