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薬の結晶を調べてたら新しい現象が見つかった話

以前、薬も結晶でできているよ!という話を紹介しました。
(詳しくはこちらから

結晶成長のプロたちは、より良い薬を作るために高品質の結晶を育てています。

今回紹介するのは「薬の結晶を調べていたら、普段見られない方法で成長していた!」という話です。Nature系列で2020年10月に出た最新記事ですね。

いやいや、それがどうした?と思われるかもしれませんが、結晶のでき方(結晶成長)はいまだにわかってないことが山のようにあります。

結晶のでき方がわかると欲しい結晶を作れます。つまり結晶がわかれば、夢の新薬も作れるかもしれません。

それではさっそく本題に入りましょう


オランザンピンの結晶成長

今回調査の対象になったのはオランザンピンという薬です。

ちょっと調べてみるとオランザンピンは精神疾患の治療に使われてるみたいですね。

このオランザンピンというのは、今回調べた結晶であってそんなに重要ではありません。名前を覚えなくても大丈夫です。

普通、結晶に原料の分子が取り込まれるときは1つずつくっついていきます。
しかし今回の薬の結晶では分子が2つ一緒に取り込まれるようなんです!


二量体で結晶に取り込まれる

このオランザンピンの結晶成長をよ~く見てみると、分子が2つくっついた状態で結晶に取り込まれている様子が見られました。このような2つくっついた状態を二量体(dimer)といいます。

画像1

参考文献より引用
この図の上のシナリオですね!

このように二量体で結晶に取り込まれていくのに結晶に何も問題がないのはあまり見られない現象に思えます。(私は聞いたことがないです)

また、タンパク質の結晶ではこのような二量体が取り込まれることがあるんですが、その場合は結晶が汚くなってしまうという問題もあります。


成長スピード

しかも二量体が取り込まれる方が、結晶成長のスピードが速いようです。どんどん大きくなっていきます。

2つ同時に取り込まれるんだから、2倍のスピードだろうと思いがちですが、そんなに甘くはありません。というのも、結晶が成長するためにはいくつかの段階を踏む必要があります。

①結晶表面に分子(原子)がたどり着く
②最も安定なところまで結晶上を移動する
③最も安定なところで落ち着く

ざっくり言うと、この①~③の段階をクリアしたものだけ結晶に取り込まれます。

画像2

https://iss.jaxa.jp/kibouser/subject/science/69014.htmlより引用

上の図で、結晶表面にたどり着いた分子は赤の”キンク”という位置まで移動して結晶に取り込まれます。

二量体になってもこの段階が素早く進行しなければ、全然意味がないわけです。二量体の取り込みの方が結晶成長が早いのは結晶表面への吸着力が強いからだそうです。

最後に

ここではざっくりとした紹介でしたが、実際には実験だけでなく計算なんかもされており、詳細に調べられています。

専門的には、新しい結晶成長モデルとして非常に勉強になりますし、おそらく他の物質でも同じようなモデルで成長しているものもあるんだろうなと思います。

ちなみにこの先生はTシャツ&サンダルで学会発表してましたね。大御所のなせる業ですね。

参考文献

Monika Warzecha, Lakshmanji Verma, Blair F. Johnston, Jeremy C. Palmer, Alastair J. Florence and Peter G. Vekilov, Olanzapine crystal symmetry originates in preformed centrosymmetric solute dimers, Nature Chemistry, 12 (2020) 914–920.


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