自然を真似して世界を変える:海の生き物 中編
サメやイカといった誰もが知っている海の生き物たちが、実は私たちの想像を超えた素晴らしい能力を持っていることをご存じですか?
これらの秘められた能力を真似して、私たちの生活を豊かにしようという海の生き物から学ぶ生体模倣技術の中編です。
前編の内容を知らなくても関係ないので、ちょっとでも読んでもらえると幸いです。
前編はこちらから▼
イカのカモフラージュ能力
イカは自分の色を自由自在に変えることができます。
イカは色素胞と呼ばれる色素の入った皮膚細胞を持っており、筋肉を収縮・弛緩することで色素胞をつぶしたり広げたりして色の濃淡を変えることができます。
このイカのカモフラージュ能力は新素材の研究でも着目されており、自由に色を変えることができる素材が開発されています。いつか私たちの手が届くところに来るかもしれませんね。
また最近では、イカから抽出された成分をもとに、目で見える可視光だけでなく、赤外線も反射するようなテープが開発されています。
このテープを使うと赤外線カメラにも映らなくなるので、軍事応用が期待されています。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=OauXCp8l3QI&feature=emb_logo
動画を見ていると、体の色が変えられるのって楽しそうだなと思いますね。
水の抵抗の少ないサメ肌
サメ肌というとザラザラしているというイメージがあるかもしれませんが、このサメ肌は有名な生体模倣の一例です。
液体や気体といった流体が流れるとき、渦のような乱れた流れが生じます。この乱れた流れは大きな抵抗を生みます。
サメ肌にはリブレット構造と呼ばれる小さな凹凸があり、この緻密で微細な構造が乱流を抑えて水の抵抗を小さくすることができます。
https://www.sciencenewsforstudents.org/article/speedy-sharkskin
このサメ肌の構造を模倣した競泳水着のレーザーレーサーは北京オリンピックで使用されて大変話題になりました。
この構造は水だけでなく同じく流体の空気でも適用できるため、航空会社が燃料費削減のため飛行機への導入を進めているという話もあります。
サメの電気探知能力
またサメは、ほかの動物の筋肉などが発する微弱な電気変化を探知して獲物を探すことができると知られています。
これはロレンチーニ器官と呼ばれる特殊な部位を使って、生き物が発する微弱な電位差を水中でとらえています。
この電気的変化(電位差)をとらえる動物はサメの他にもエイやカモノハシなどいろいろ見つかっています。
最近では、この電気変化に敏感であることを逆手にとって、サメが嫌がる信号を出すことで寄せ付けない装置などができているそうです。サメに痛みがあるのかはわかりませんが、サメを傷つけずに遠ざけておくことができるのであれば、人にとってもサメにとってもやさしい装置ですね。
このような電気変化の探知能力が解明されて人工的に模倣できれば、微弱な変化をとらえるセンサーとして使えるかもしれませんね。
ウナギ型ロボット
ウナギというと、かば焼き・鰻重といった高級食材というイメージが強いですが、あのヘビのような細長い形は魚としてはちょっと珍しいですよね。
現在では、ウナギの形を模倣したロボットが作製されており、人が入り込めない入り組んだところにも自由に出入りすることができるロボットとして期待されています。
さらに先端の口先で細かな作業もでき、人間が手で行っていた仕事を代替することも可能になります。
https://www.youtube.com/watch?v=h-6FbxjNsQU&feature=emb_logo
ヘビ型ロボットが陸上の被災地などで救助に使われるように、このウナギ型ロボットは海の災害現場や浅めの海底の岩場の探索なんかにも使えそうです。
デンキウナギの発電機構
デンキウナギというと有名でその名の通り、電気を発するウナギですね。しかし、よくよく考えると電撃できる動物ってすごくないですか?
電撃って少年漫画やSF映画の特殊能力の類で、ちびっ子のあこがれの技の1つですよね。
このデンキウナギは体に電池を搭載しているわけではありません。発電細胞と呼ばれる細胞で微弱な電気を発生させます。この細胞が数千個つながっており、それにより強力な電気を発生させて敵を攻撃することができます。
最近では、この発電細胞の原理をハイドロゲルを使って模倣してロボットに搭載しようという試みがあります。
これこそ特殊能力はなくとも知能の高い人類のなせる業ですね。
ちなみに調べてみるとデンキウナギはウナギの仲間ではなく、お隣の仲間はコイとかナマズになるそうです。魚って奥が深いですね。
ムール貝の天然接着剤
たまに料理で見かけるムール貝ですが、意外と有名な生体模倣の対象です。
ムール貝はイガイという貝の一種で、このイガイという種は天然の接着剤により岸壁に張り付いています。この接着剤は非常に強力で、多くの研究者の注目の的でした。
イガイやフジツボは特殊なタンパク質を持っており、この接着タンパク質を使って船体や岩場など様々なところにくっついています。この天然の接着剤は表面が乾いていようが濡れていようが関係なく、どんなものにも張り付くことができます。
ちなみに厳密にはイガイとフジツボの接着方法は異なります。イガイは足糸と呼ばれる部位を使ってゆっくりと移動することができますが、フジツボは殻を直接接着するため一生同じ場所で生活します。
このイガイやフジツボから着想を得た天然接着剤は、工業用の接着剤として使われるだけでなく、医療などにも期待されています。
最後に
海の生き物は有名なものからあまり知られていないものまで、私たちの予想にしない特殊な能力を持っています。
もしかすると私たちが見落としているだけで、実は素晴らしい能力を持った海の生き物は他にもたくさんいそうですね。
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