【バイオモーフ】生き物のような結晶
これまで生き物が作り出す結晶”バイオミネラル”については紹介してきましたが、世の中には生き物のような形になる結晶というものがあります。
今回は、そんな世にも奇妙な”バイオモーフ”結晶について紹介します。
バイオモーフとは
私自身、論文を読んで初めて知った言葉ですが、もとはバイオモーフィック、生命形態的とも呼ばれ、まるで生き物のような形を表すための単語のようです。
今回紹介する論文では、人工的に生物のような形をした結晶を作ることに成功したというものです。まるで、アメーバや巻貝、ウニのような形をした結晶が次々と出てきます。
研究に使用された結晶は生き物と親和性の高い炭酸カルシウム水和物(モノハイドロカルサイト)ですが、それ自体は無機物で生き物ではありません。
そんな物質が生き物のような形になるというのはとても興味深い研究です。
それでは一緒に見ていきましょう。
バイオモーフ結晶
それでは1つずつ見てみましょう。実際に見てみる方がわかりやすいと思います。
これだけ見ると、丸っこいのはそれほど面白みのない結晶ですね。右側のちょっと変な形になっているのはイモムシ型と書かれています。確かにそうも見えなくもないですが、それほど特徴的でもないですよね。
こちらは45℃で作った時の様子です。明らかに違うシート形をしており、ヱヴァンゲリヲンの使徒に出てきそうな造形をしています。
さらに、一番右側のものは巻貝のような形状となっていますね。これはシート状のラメラが成長に伴いねじれることによってこのようなツイストリボン形状に成長したと紹介されています。
温度はもう少し上がり60℃で作ると、完全に造形は変わり、さらに細い筒状の形状になります。これはもともと上のシート型になる予定だった結晶が成長速度や方向の違いにより、筒状になったようです。
そして70℃で作ると線香花火のような状態になっていますね。論文では星形と紹介されています。
これだけでも不思議な形をしていることがわかりますが、さらに研究グループは結晶が成長する過程を調べました。
すると、もともと球形だった姿から徐々に突起が出てきて、まるでウイルスのような形状に成長しています。ウイルスは生き物ではないですが、生物に近い物質としてはバイオといってもいいでしょう。
この不思議な生き物のように成長する結晶は一体どのようになっているのか?
それを調べるために、研究グループはより詳細な調査を進めました。
結晶の成長度合いに合わせて、色分けして観察した結果がこちらになります。
黄色で塗られている中心から結晶は成長して緑色、紫色と大きくなっていきます。
黄色の中心から成長していく結晶はまるで腕が伸びるかのように外側に向かって広がっている様子がわかりますね。
このまるで生き物のような結晶は主に温度の変化によって形を変えることがわかりました。そこで研究グループは、温度を変えることで、この世で見たこともない形態を持つ結晶を作り上げました。
これはお遊びのように思えるかもしれませんが、結晶の形態をここまで自由に操ることができるというのがこの研究の面白さでもあります。
要は、将来こんな形の結晶が欲しいなと思った時に、結晶形態学の知見を使ってここまでユニークな形態を作ることが可能になると示唆しているわけですからね。
最後に
結晶成長界隈では、「結晶は生きている」といわれますが、まさにそれを体現するような論文だったと思います。
ここまで生き物のような結晶を相手にすることはありませんが、一般的に結晶を作っている研究者は、大きくきれいに成長するように頑張っています。まるで生き物の世話をするかのようにです。
そして、自分が育てる結晶への愛が強いほどきれいな結晶が作れるといいます。(昔お世話になった研究者曰く)
半ばスピリチュアルな感じがありますが、これは事実だと思っていて、結晶への愛が強い人ほど、どのような環境にしたらどのように成長するかという物理現象をしっかりと理解して結晶を育てることができるわけです。
その結果、自分が思ったような素晴らしい結晶を育てることができるということです。
最後に少々熱くなってしまいましたが、研究者というのはそんな不思議な科学の魅力に取りつかれた人種といってもいいでしょう。そして今回紹介した論文は科学者の探求心が良くわかる研究だったと思えます。
参考文献
Thermal assisted self-organization of calcium carbonate
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