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【フラーレン結晶】ナノの世界のサッカーボール

ウイルスよりも小さなナノの世界というのはとても魅力的であり、そんな世界で面白い形を作ったりするのが研究者の夢でもあります。

その中でも有名なのがフラーレン
分子サイズのサッカーボールといっても過言ではない物質です。

炭素原子のみで構成されているフラーレンは1nm以下という電子顕微鏡を使っても見るのが難しいサッカーボールです。

今回は、そんなフラーレンについて紹介しながら、合わせてフラーレンが規則正しくならんだフラーレン結晶についても紹介したいと思います。

フラーレンとは

冒頭でも紹介した通り、フラーレンは炭素原子のみで構成されており、黒鉛(鉛筆の芯)やダイヤモンドと同じく炭素の同素体の一種です。

フラーレン(Wikipediaより引用)

フラーレンにも種類があり、中でも有名なのが炭素原子60個で構成されているC60フラーレンです。

一方、炭素が60以上あっても球形の形状を作るフラーレンを構成することができ、炭素原子70個以上のフラーレンを高次フラーレンと呼ぶそうです。

フラーレンは知られてからだいぶ経ちますが、まだまだ研究段階の材料で、その応用や医療やエレクトロニクスなど幅広く考えられています。また有名な使用方法としてはミクロな世界での潤滑材としての役割を果たすとも言われていますね。

また、フラーレンの面白い特徴は、球の内部に他の原子やイオンを内包することができるという点です。

物質の最小単位ともいえる原子やイオンをフラーレンの中に入れることができると何か良いことが起きるのでしょうか?

実は、これは世界最小のスイッチとして使うことができるかもしれないんです。

1nm以下のスイッチというともはや電子顕微鏡でもとらえることが難しいサイズですが、そんなスケールのスイッチが実用化されたらそれこそ未来の技術ですよね。

フラーレン結晶

ここまではフラーレン単体の紹介でしたが、今回注目したいのはフラーレンが規則正しく並んだフラーレン結晶です。

どんなものでもというと語弊がありますが、サイズがそろった球体の多くは空間中に敷き詰めることができます。これは結晶になるのが原子や分子だけではなく、ウイルスもマイクロビーズもパチンコ玉も同様に結晶になることができるのと同じです。

つまり、1nm程度の非常に小さなフラーレンも空間中に敷き詰められると規則正しく並び、結晶構造を取ることができます。

フラーレン結晶は面心立方格子という構造が有名であり、この構造はぎっしり敷き詰められた状態(最密充填構造)の一種です。

フラーレンの面心立方格子(fcc)

http://www.photon.t.u-tokyo.ac.jp/~maruyama/papers/92/P11_WhatisC60.pdf

ただ面白いのは、フラーレン結晶も状況に応じて結晶構造(フラーレンの並び方)が変わります。

例えば、低温の-13℃(260K)では単純立法格子 という構造に変化しますし、常温でも準安定相として六方晶になるそうです。準安定とは、最も安定ではないけど比較的安定というイメージです。

まあ、難しいことは置いておいて、このフラーレン結晶は一体何に使われるのでしょうか?

まずわかりやすい例としてダイヤモンドの材料になるそうです。人工的にダイヤモンドを合成する方法はたくさん研究されていますが、その中でも強い圧力を加えて押し固めるという方法があります。

これはダイヤモンドが生まれやすい地球内部の環境を人工的に作り出すということですね。ダイヤモンドの原料は炭素なのでグラファイトなども選択肢にありますが、フラーレン結晶もまた原料として注目されているようです。

次に、超伝導材料になるという点も期待されています。

超伝導とは電気抵抗がゼロになる特殊な材料の特徴です。わかりやすい例では送電ロスがゼロになる送電線なども超伝導に期待される未来の技術です。

どうやらフラーレン結晶に金属を少し添加してやると、超電導現象が生じることが知られており、研究が進められているようですね

柔粘性結晶

フラーレン結晶において、フラーレン内の炭素は強く結合していますが、フラーレン間はファンデルワールス力という弱い力でつながっています。

そして結晶内でフラーレン分子は所定の位置にとどまりながらも、各々回転運動をしてします。

このような結晶としての配置は変えずに要素だけが回転運動するような物質を柔粘性結晶といいます。

通常の結晶は原子や分子や多少熱による振動はしていますが、グルグル回転するようなことはありません。一方で、フラーレン結晶などの柔粘性結晶は結晶の要素となるフラーレン分子が高速で回転しているんです。

柔粘性結晶は液晶とともに結晶と液体の狭間にあたる状態とも言われています。

一般的な柔粘性結晶の模式図

最後に

今回はフラーレンが規則正しく並んだフラーレン結晶を紹介しました。

フラーレンという物質自体がサッカーボールのような興味深い構造をしているのに、そのナノサイズのサッカーボールが結晶を形成しているというの面白いですよね。

そして、フラーレンはまだまだ分かっていないことがたくさんある物質でもあります。今はまだ基礎研究の段階化もしませんが、いつか私たちの生活の身近なところに使われるのが待ち遠しいですね。

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