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水に秘められた力~分離圧とは~

薄く水が挟まった2枚のガラス板やプラスチックフィルムがくっついて、なかなか離れないという経験をした方は意外と多いような気がします。

今回は、私たちの生活に密接に関係する水に秘められた不思議な力”分離圧”について紹介します。
秘められたとか書くと一気に胡散臭くなってしまいますが、まじめな物理のお話です。


分離圧とは

あまり聞きなれない言葉ですが、分離圧は私たちの身近なところに潜んでいます。
例えば、薄い水の膜が挟まった2枚のガラス板を引き離そうとすると思ったより難しいはずです。これは分離圧によるものです。

”分離”圧というのに吸着してると思われるかもしれませんが、この分離圧は引力にもなれば反発力にもなる不思議な力なのです。

分離圧は板に挟まれた液体の膜厚をもとも安定な厚さにする力と考えると分かりやすいです。そのため液体や板(固体)の種類や、まわりの環境(温度や湿度)に応じて安定な膜厚は変わります。

語弊を恐れずに言ってしまえば、
安定な膜厚よりも、ガラス板を近づけようとすると反発して板を分離する力になります。
逆に、ガラス板を引き離そうとすると、元の膜厚が安定なのでガラス板を吸着してくっつける力になり、はがすのが難しくなります。

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ごく薄い2つの物体(固体)の間には水分子(青丸)が存在しています。

緑の矢印方向に押しつぶそうとすると、赤の矢印方向に反発力がはたらき、緑の矢印方向に引き離そうとすると、赤の矢印方向に引力がはたらき吸着します。

この分離圧の原因は主に分子間力(ファンデルワールス力)、静電力、水和力などに起因するといわれます。厳密にはかなり難しい話になるようですが、これらの力の大小は、物質やその組み合わせによって変わります。

簡単なようで、かなり複雑な現象ですね。


いったい何に使われるのか?

分離圧という現象は、ものが乾くときに生じる力として知られています。
ものの乾燥というのは、水が蒸発してなくなることです。

これは例えば土壌やセメントが乾燥するときにはたらく力の1つとして挙げられます。水が含まれた土壌やセメントが乾くと水の膜がどんどん薄くなっていきます。ここでの水の膜とは小さな砂粒の間に挟まっている水のことです。

そのため、乾燥すると収縮して、ところどころひび割れなどが生じます。

しかし、ものの乾燥時にはたらく力は、分離圧だけでなく毛管力など他の力や機構があるので、実際ひび割れなんかはとても複雑なお話です。

そのため、乾燥に関する研究は今でも盛んにおこなわれています。


最後に

最近、研究で分離圧に触れる機会が多かったので記事にしてみました。

少し分野が変わりますが、最先端技術が広く普及する昨今でも、水が凍る現象の研究がされているぐらい、水にはまだまだ分かっていないことがあります。

水って本当に奥が深い

P.S. 今回は分離圧にフォーカスしましたが、実際に水の薄膜には毛管力も同様に大きな影響を与えます。2枚のガラス板がくっついて離れないのも、主には毛管力と分離圧の2つの要因が考えられています。

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