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【未来のドラッグデリバリー】薬を結晶に閉じ込める新技術

薬を体の所定の位置に届ける技術としてドラッグデリバリーシステムと呼ばれるものがあります。

例えば、抗がん剤のように正常な部位に触れてしまうと副作用が起きる薬剤や、体に取り込まれた瞬間失活してしまうような酵素を患部まで反応しないようにカプセルに入れておく技術ですね。

ドラッグデリバリーシステム自体はとても流行りの技術なんですが、これがなかなか難しいんです。

今回はそんなドラッグデリバリーシステムに新しい光をもたらすような新技術を紹介したいと思います。

ウニは固いトゲで中身を守っている

最近では遺伝子情報であるDNAやRNAを直接体に送り込む拡散医薬なんてものもありますよね。

簡単に言うと、解熱剤のような化学物質ではなくて、もう少し大きく機能を持った分子であるDNAやタンパク質、酵素といったものが薬として使われいます。

しかしながら、これまで大きな生体分子をその機能を残したまま患部に届けるのが至難の業だったんです。

そこで研究者が目を付けたのは生き物の生態です。論文ではウニを例に挙げていたので、そのまま引用しましょう。

参考文献より引用

お寿司で出てくるウニって柔らかいですが、あの柔らかい部分が海中で活動しているわけではありませんよね。

ウニは自分たちの内臓を守るために紫色の固いトゲや殻で表面を覆っています。

なに当たり前のこと言ってるんだ?と思われるかもしれませんが、その当り前を薬にも適用したらいいじゃないかというのが目の付け所です。

柔らかいけど、機能を持った分子であるDNA・タンパク質・酵素を固い結晶の中に閉じ込めてやれば、患部まで反応せずに届けることができるのではないかと考えたわけです。実際ウニのトゲトゲも結晶ですからね。

MOFを使ったカプセル化

とはいえ、結晶ならなんでもいいのかというとそうでもありません。

研究グループは最近流行りのMOF 一種である ZIF-8という物質を結晶に選びました。MOFとは、ジャングルジムのような骨組みのだけの物質です。そのため、多孔質であり、物質を中に閉じ込める能力があります。

参考文献より引用

このMOFをタンパク質や酵素の周辺で結晶化させて、柔らかい薬の部分を包み込んでしまおうということです。

物質のカプセル化に関する技術は非常に難しく、なかなかうまくいかないのが現実です。正直、この論文を見たとき、本当にうまくいくの?と思いましたが、その結果がとてもすごいんです。

結晶化は問題なくでき、多くの内包物の場合できれいなMOF結晶を作ることができたようです。さらに一部の内包物によってはナノリーブ、ナノフラワー、ナノスターといった葉っぱや花のような形をした特徴的な結晶ができたようです。


参考文献より引用

とりあえず、結晶ができたのは良しとして、それがウニの殻のように安定性や耐久性を向上させるのでしょうか?

ということで、研究グループは実際に過酷な環境下で薬がきちんと保護されているかどうかを確認したようです。

例えば、酵素が失活してしまうような100℃のお湯などにその結晶を入れたようですが、機能性は問題ありませんでした。一方で、今回注目したMOF以外の炭酸カルシウムやシリカといった比較的有名な結晶で包んだ場合だと、案の定機能が極端に低下していました。

さらに、結晶から問題なく薬が放出されるのか、また放出された薬はきちんと反応するのかという点も調べられています。当然、この点に関しても問題はなく、実用化にまた一歩近づいたと言えます。

一つ注意してほしいのは、本記事はざっくり紹介のため内包する酵素などの薬の情報については割愛しています。つまり何でもかんでもうまくいくという都合の良い話ではないんです。

それでも、こんな技術が世に普及して、より洗練されることで将来多くの人を救う可能性があるという点は注目すべきだと思います。

最後に

研究は日々進歩していますが、人類は常にもっとよいものを求めます。

これはどこまで行っても終わりがない果てなき欲求とも言えます。そして、科学の進歩とともに後世の人類は豊かな生活を送ることができるようになります。

論文1つ1つはとっても小さな発展ですが、それが積み重なっていつか大きな人類の成果となるのを楽しみにするしかないですね。

参考文献

Biomimetic mineralization of metal-organic frameworks as protective coatings for biomacromolecules

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