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【S層】きれいな幾何学模様を作るタンパク質

生き物がつくる幾何学模様はとても複雑でありながらありふれており、シマウマの縞模様やDNAの二重らせん構造といったものは自然の神秘と思えるぐらいきれいな現象です。

このような誰が設計したわけでもないのに、きれいな幾何学構造を作るものを自己組織化と呼びます。今回はそんな自己組織の中でも特にきれいな模様をつくるタンパク質:S層を紹介したいと思います。


S層(S-layer)とは

細菌の表面に現れるタンパク質の一種で、とっても薄い膜のようになって細菌を囲みます。この何の面白味もない名前のタンパク質ですが、実はとっても面白い特徴を持っています。

それは冒頭にも書いた通り、きれいな幾何学模様を描くということです。この薄い膜になるS層を見てみるとこんな感じに見えます。

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なにやらウロコみたいな感じがしますね。個人的にはきれいな幾何学模様に見えますが、多くの人はウロコじゃん!ってなってるかもしれません。

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もう少し拡大してみてみるとこんな感じ。観察方法が異なるので色味も違います(実際の色ではなくて見やすいようにしているだけです)

こう見ると、規則的に並んだ模様にも見えるのではないでしょうか。これがタンパク質の作る構造だと思うと不思議ですよね。

ちなみに、これは1つのタンパク質が模様を描くのではなく、たくさんのタンパク質分子が集まることできれいな模様を作ります。イメージとして下の図のような感じ。

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基板に吸着したタンパク質は凝集し、そこで結晶化が始まります(左の図)。ここでは規則正しく並ぶことを結晶化と言ってます。そうしてできた結晶がちょっとずつ傾いて集まると上の右の図のようになるわけですね。

このように複雑な構造を持つタンパク質がきれいな幾何学模様を形成するというのはとても面白い現象です。


何に使えるのか

調べてみると実はずっと前からバイオセンサーへの研究が進められていたそうです。やはり生体分子はバイオ系に強いんでしょうか?

またS層は非常に小さな穴が開いており、水分子やイオンを通すことはできるようですが、タンパク質やウイルスといった大きな分子を通さないみたいです。そのためS層をタンパク質を濃縮するために使う限外ろ過膜へ利用も考えられていたそうですね。

他にも、診断システム、血液浄化、薬物送達(DDS)など幅広い応用が期待されます。近年、DNAや脂質分子がものづくりの材料として期待されている中で、幾何学的な模様を描く特殊なタンパク質であるS層もまた大きく注目されることになるかもしれませんね。

最後に

私がはじめにS層を知ったのは国際会議に行ったときに聞いた講演でした。そこにはS層の大御所Sleytr先生(今回の引用論文のち著者)も来ていて、大物感が強かった記憶は覚えています。

しかし、当時はS層について存在すら知らなかったので、「うわーきれいだな~」、「かっこいいな」ぐらいの小学生みたいな印象でした。

ちなみにS層の研究は結構盛んにおこなわれているため、様々な幾何学模様(結晶構造)が確認されています。結晶好きの私からすると、このS層にもう少し足を踏み込みたいですね。


画像は以下の参考文献より引用
Dietmar Pum, Jose Luis Toca-Herrera and Uwe B. Sleytr, S-Layer Protein Self-Assembly, Int. J. Mol. Sci. 2013, 14, 2484-2501

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