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放射線を検知するシンチレータとは

放射線と聞くと、危ない!怖い!というイメージが強いかもしれませんが、放射線が私たちの生活を良い意味で大きく変えたのもまた事実です。

例えば、健康診断でよく取るレントゲンや、空港の危険物探知機、他にも材料の性質やたんぱく質の構造を調べるのにも放射線の一種であるX線が使われています。

そんなX線を検知するために、いろいろな方法が開発されていますが、その中でも放射線を検知するのに優れた物質としてシンチレータと呼ばれるものが存在します。

シンチレータ?なんだそれは? 聞いたことないぞ! ってなりますよね。

ということで、今回はシンチレータについて簡単に紹介していきたいと思います。

シンチレータとは

シンチレータとは放射線が当たった際、短い時間蛍光を発する物質のことです。そして、その蛍光現象をシンチレーションといいます。

プラスチックシンチレータ(リンク先より引用)

原理は少し難しいのですが、非常に簡単に言うと、高いエネルギーを持つ放射線(X線やガンマ線)が当たるとシンチレーター内部の原子が安定な状態から励起状態と呼ばれるいわゆる興奮した状態になります。

ずっと興奮しているわけにもいかないので、吸収したエネルギー分を蛍光として放出し、元の安定状態に戻ります。

この元に戻るときに放出する蛍光を観察することで、私たちは目には見えない放射線に気づくことができるのです。

このような現象を起こすシンチレータには非常にいろいろな種類があることが知られています。

ざっと挙げるだけでもたくさんあり、有機物、無機物、固体や液体など、材料の種類だけでなくその状態も様々です。その材料特性や用途に応じて、シンチレータの種類を変えるようですね。

ここでは一般的に固体デバイスとして用いられている無機結晶のシンチレータについて少し見ていきましょう。

シンチレータに求められる特性

まずシンチレータは透明でなくてはなりません。確かに色がついていたら中で発光現象が起こっても見えないので、全く意味がないですよね。透明なシンチレータの中で起きた発光をCCDやCMOSセンサを使ってとらえてやるわけです。

次に、シンチレータは強くなくてなりません。固い結晶によくありがちなのは脆いことです。例えば非常に硬いことで有名なダイヤモンドもハンマーで叩けば砕け散ります。つまりダイヤモンドは固いけれど脆いということになりますね。

一方で、シンチレータに必要とされる性質は加工の際にヒビが入らないような強さ(脆くないこと)を持ってないといけなわけですね。

物理的な特性では、発光効率が良いことやエネルギー分解能が高いことが必要です。発光効率とは文字通り、放射線が当たった際にきちんと明るく光ってくれるかということです。微弱な光では検出するのが大変ですからね。そしてエネルギー分解能というのは簡単に言うとエネルギーに対してのぼやけ具合のようなものです。

そして最後に作るのが簡単でなくてはなりません。シンチレータ結晶には様々な種類がありますが、中でも高性能な材料としてCe:Gd3(Al,Ga)5O12が挙げられます。見ただけで、結構たくさんの元素が入った複雑そうな結晶だなと感じますね。

Ce:Gd3(Al,Ga)5O12結晶(リンク先より引用)

まあ、この複雑そうというのは、実際に組成をデザインするときの難しさになると思いますが、もっと厄介なのは、このような結晶を作れるかどうかです。おそらく結晶づくりというと、氷の結晶を思い浮かべるかもしれませんが、氷と違ってシンチレータは単に冷やせばOKというわけにはいきません。

そもそもセラミックスなので、かなり高温でないとそもそも融けないんですよね。そして結晶ができる温度というのは、この材料組成にかなり影響を受けます。数パーセント割合が異なるだけで、思ったように結晶はできません。

このようなリアルな事情があるため、結晶製造には非常に多くの労力がかかることも想像できます。

シンチレータ結晶は少なくとも上に挙げたようなたくさんの課題をクリアしなければなりません。(これは半導体でも課題の種類は変われど同じです。みなさんが思っているほど簡単にはできないんです。)

シンチレーターの応用例

放射線が当たると蛍光を発するシンチレーターは主に検出器の材料として使われています。

その1つであるX線センサーについては近いうちにnoteで記事にしようと思いますが、ここではシンチレーターの応用例をざっと例を挙げてみます。

・X線衛星
・X線撮影(レントゲン・CT・PET・危険物検知器)
・医療用PET(ガンマ線の検知)
・石油検知
・素粒子検知

このように見てみると、宇宙から医療、そして素粒子と本当に幅広い分野で利用されています。

当然、1種類のシンチレーターでできるわけではありませんが、シンチレーターの応用の幅はわかってもらえるかと思います。

おそらく一般には全く知られていないであろうシンチレーターですが、実は最先端の科学を陰で支えてくれているんですね。

それに加えてシンチレーターは結晶材料では半導体、圧電素子に次ぐ市場を持っているそうです。つまり、私たちの想像以上にビジネスの世界でも重要な材料であることは確かです。

最後に

今回は放射線をキャッチして光る物質シンチレーターについて紹介してみました。

シンチレーターの研究は今でも精力的に行われており、これからも発展が見込める分野の1つです。
地味な材料研究ですが、このような技術が私たちの生活を豊かにしてくれることを忘れずに生きていきたいですね。

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