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まるで結晶のようなハチの巣の成長

ハチの巣といえば、六角形のハニカム構造が有名ですよね。

今回、まるで結晶のような造形をもつハチの巣が見つかりました。

すでに日本語で紹介されている記事があるため、ここで単なる紹介をしてもつまらないと思います。そこで、結晶学的な観点からもう少し詳しくみていきたいと思います。


結晶のようなハチの巣

まずは論文内容を簡単に紹介します。

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参考文献[1]より引用

この写真を見ると、4種類の形状があることがわかります。
(a)同心円状に広がる形状、(b)らせん模様を描く形状、 (c)2つのらせんがぶつかった形状、(d)不規則に乱れた構造

特に、同心円状のものや、らせん模様のものは、まるで人間が設計したかのような精巧な作りになっています。

横から見るとこんな感じ

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参考文献[1]より引用

この研究では、この精巧なハチの巣は誰かが指示を出して作られたわけではなくて、ハチがその場の状態を見て1つ1つ部屋を作っていった結果、まるで人間が設計したようなきれいな構造を作ったということがわかりました。


大まかな話はこちらのサイトがおススメです。

とてもわかりやすく、まとめられています。

そしてこの論文では、原子の規則構造である結晶の成長と比較して議論されています。

結晶も顕微鏡を通して見てみると、こんな感じでらせん状になっているものが見えます。

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参考文献[2]より引用(らせん成長)


結晶の構成要素である原子は、意思を持っているわけではありません。それなのに、非常にきれいならせん形状を作り上げることができます。ありふれた不思議な現象である結晶成長とハチの巣のでき方を比べると、似たような原理でできていることがわかりました。


結晶成長:結晶は育つ(育てる)もの

結晶は成長させるという表現を使います。英語では Crystal Growthです。
生き物でもないに成長というと気持ち悪く感じる方もいるかもしれませんが、結晶成長の研究者はまるで生き物のように大切に結晶を育てます。

論文では、シミュレーションをしていましたが、そこまで深入りしていませんでした。
ここでは、論文ではあまり触れられていなかった結晶成長の観点でもう少し詳しく見ていきましょう。


二次元核成長

上の写真の左上(a)がこれにあたります。一層ずつできていきます。
ハチの巣だったら1階を作ったら2階を作ろうという感じですかね

この2次元核成長は結晶表面で2次元島と呼ばれる結晶の核ができなければ始まりません。しかし2次元核を作るにはエネルギーが必要なので、成長スピードがそれほど速くありません。

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参考文献[3]より引用

ハチの場合の核形成はどうなんでしょうか?
そもそも核形成というのは、ある一定のサイズになった結晶がエネルギー的に安定となって初めて核となります。つまりエネルギー的に不安定なぐらい小さなものは核にはなれず壊れてしまいます。

ハチが一度作った部屋を壊すのであれば、結晶と似たようなことが起こりそうですが、そうでもなければ結晶と同じということはないでしょう。


スパイラル成長

らせん成長とか渦巻き成長とか言われます。最初の写真の右上(b), 左下(c)がこれにあたります。(c)は2つのらせんがくっついて少し見にくいですね。

結晶におけるスパイラル成長は、らせん転位と呼ばれる構造(欠陥)を中心に起こります。
簡単に言うと、転位とは原子のずれです。

原子が1つずれるとステップやキンクと呼ばれる段差部分が現れます。原子はこの段差のところに取り込まれやすく、その結果結晶はらせん状に成長していきます。

らせん成長、らせん転位の図[3]

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スパイラル成長では上述の2次元核の形成が必要ないので(つまりいつでも段差が存在する状態)、結晶の成長スピードが速いです。結晶を高速で成長させるためにあえてらせん転位を利用するという手もあるぐらいです。

個人的に気になるのは、ハチの巣の中心にらせん転位が存在するのかということです。
らせん形状を作っているということは1部屋分のずれがあるはずです。この1部屋分のずれがどのような起源で発生するのかわかれば、同心円上のハチの巣とらせん形状のハチの巣の違いが分かるような気がしますね。


付着成長

上の写真の右下(d)がこれにあたります。結晶表面に原子が次々やってきて、到着したらすぐにくっつきます。
その名の通り付着して成長していきます。

これは結晶表面への原子の供給が多すぎるときに起こりやすい現象です。
その結晶成長のメカニズムから付着成長した結晶表面はあまりきれいではありません。

ハチの巣の場合はハチがあちこちで一生懸命部屋を作ったため、ボロボロの表面になったんでしょうか

結晶の場合は原子の吸着と脱離が結晶成長モード(スパイラル成長、二次元核成長、付着成長)に違いを与えます。しかし原子は非常に小さくて、一粒一粒の原子の挙動を追うことは難しいとされています。
一方、ハチは目視でも確認できる大きさなので、ハチの巣の成長をビデオカメラで録画していたら、何か面白い発見がありそうですね。


最後に

もともと原子の規則構造として知られていた結晶がそのスケールを変えても実現することはよく知られています。

例えば原子よりも大きな分子やコロイド粒子、タンパク質、ウイルスといったものも結晶になります。
また生物が自らの能力で結晶を形成することも知られています。

しかし動物が作り上げる建造物が結晶と同じような成長をするというのは非常に興味深い内容です。もしかするとハチの巣以外にも似たような巣をつくる生き物がいるかもしれませんね。

参考文献

[1] Silvana S. S. Cardoso, Julyan H. E. Cartwright, Antonio G. Checa, Bruno Escribano, Antonio J. Osuna-Mascaró and C. Ignacio Sainz-Díaz, The bee Tetragonula builds its comb like a crystal,Published:22 July 2020.
[2] http://www.phys.nthu.edu.tw/~spin/course/104F/Ch1-2-Tina.pdf
[3] M.Giulietti, M.M.Seckler, S.Derenzo, M.I.Ré and E.Cekinski,INDUSTRIAL CRYSTALLIZATION AND PRECIPITATION FROM SOLUTIONS: STATE OF THE TECHNIQUE, Braz. J. Chem. Eng. vol.18 no.4 São Paulo Dec. 2001.
[4] https://encyclopedia2.thefreedictionary.com/Crystal+formation

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