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六角形の塩が電子デバイスを進化させる

概要

塩(食塩・岩塩)=塩化ナトリウムといえば知らない人はいない、私たちの生活に欠かせない調味料ですね。
今回紹介するのは、非常に小さなナノスケールの領域では六角形の塩が見つかったという論文です。

Exotic Two-Dimensional Structure: The First Case of Hexagonal NaCl
Kseniya A. Tikhomirova, Christian Tantardini, Ekaterina V. Sukhanova, Zakhar I. Popov, Stanislav A. Evlashin, Mikhail A. Tarkhov, Vladislav L. Zhdanov, Alexander A. Dudin, Artem R. Oganov, Dmitry G. Kvashnin, and Alexander G. Kvashnin, J. Phys. Chem. Lett. 2020, 11, 3821−3827


高校の化学を勉強した人にとっては、塩化ナトリウム(NaCl)構造として出てくる非常に有名な構造です。

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結晶モデルはVESTAを用いて作成※

これを見るとわかるように、塩化ナトリウム=塩は一般的に立方体(Cubic)の構造とっており、これが六角形(6回対称)になる考えられていませんでした。
しかし、最近、ダイヤモンド基板上で成長させると非常に小さいナノスケールの領域に限り、六角形の塩ができることが発見されました。

この2次元状の六角形の塩の発見は、半導体素子の1つであるトランジスタの進化に役立つかもしれません。


2次元物質

炭素が2次元のハニカム構造を持つグラフェンに代表される2次元物質は特異な性質を持つことから研究が盛んに行われています。

ハニカム構造とは下図のようなハチの巣のような六角形が敷き詰められた構造です。

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例えば、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、スタネン(Sn)といった単一原子から構成されるものや、複数の元素が含まれる場合は窒化ホウ素(h-BN)等も最近話題の物質です。

そして今回は塩化ナトリウム(NaCl)、つまり塩の2次元化に成功したという報告です。この時、私たちが知っている立方体にはならず、六角形のシート状になったということです。(正確には6回対称の2次元シート状)

結晶は面によって様子が違う

ここでは、ダイヤモンドを用いた電界効果トランジスタを想定しており、ダイヤモンド基板上に塩を成長させています。

結晶は原子が規則正しく並んだものなので、どこで切っても同じでしょうと思われるかもしれませんが、それは同じ方向に切った時だけです。実際、異なる角度で結晶を切断すると異なる原子の並びが顔を見せます。

この(100), (110), (111)というのは結晶面の名前だと思ってください。(数字の付け方はミラー指数でググってみてください)

下の図は、ダイヤモンドを3種類の異なる方向から見たときの結晶面を表しています。この基板上で成長するNaCl(塩)からすると、全然異なって見えるわけですね。

図1

結晶モデルはVESTAを用いて作成※

今回の研究では、ダイヤモンドの3種類の面に対して、それぞれ塩を成長させたとき、特定の面では六角形状に成長することが計算から予測されました。さらに実験的にもダイヤモンドの(110)面上で実際に成長に成功しました。

このダイヤモンド表面に成長した塩は、ダイヤモンド基板との結合力が高く、バンドギャップが非常に大きいため、ダイヤモンド電界効果トランジスタのゲートとしての応用が期待されています。これは現在研究されている六方晶窒化ホウ素(h-BN)よりも優れている特性です。

さらに今回の発見は、これまで常識的には考えられなかった物質の2次元のハニカム構造(六角形)の可能性を示しました。今後も、私たちの身の回りのありふれた結晶が異なる様子を見せるかもしれないです。


感想

ナノスケールでは私たちが想像もしないようなことが起きることは知っていましたが、まさか塩が六角形になるとは思いもしませんでしたね。

論文としては化学的な結合エネルギーの観点から計算しているのですが、私自身は結晶構造を専門にやってる(つもり)なので、ダイヤモンド基板の結晶面(幾何学的な関係)に興味があります。

当然、結晶面が変われば結合エネルギーも変わるので、もっと他の基板を使えば、さらに予想外な結果が得られるかもしれないですね。

※ K. Momma and F. Izumi, Commission on Crystallogr. Comput., IUCr Newslett., No. 7 (2006) 106-119.


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