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#4|創造病に恋は難しい

ここ数日、作曲が良い感じに進んでいる。

曲調やコード進行を決め、重要な部分の歌メロを定め、構成を考える。

真っ白なキャンバスに落書きをしているようなイメージだ。どんな色を乗せようか、どんな道具を使って、どんな質感にしようか、あらゆる想像を膨らませる。

休憩には "Phoebe Bridgers" を聴く。贅沢な時間。


そんなワクワクした時間とは裏腹に、生活はどんどん荒んでいく。

昼夜は逆転し、風呂は2日に1回、食事はパスタとレトルトカレーを交互に食し、外出先はコンビニのみ。


いつものことである。


幼い頃から、何かひとつのことに集中し始めると、病的に周りが見えなくなる。周りだけでなく、自分の身体すら労ってやれなくなる。


でも何故か、全くもって不思議なのだが、この病気が悪化すればするほど幸福感が増していくのである。


今まで、この矛盾した状態を何と呼ぶべきか悩んでいた。

せっかくなので決めてしまおう。


そうだな......。


「創造病|クリエイティブ・ハイ」

ってのはどうだろう。


今は独り身のなので、創造病の発作にさほど悩んではいないが、学生時代、恋人がいた頃は大変苦労したものだ。いや、苦労させたものだ、と言うべきか。


当時、創造病によって薄情を極めた僕は、恋人が誕生日を祝ってくれると言っているにも関わらず、制作を優先させて学校に篭ったり、一年記念日にディズニーランドに行きたいと言う真っ当な乙女に「バカたれ。そんな時間はどこにも無い。制作だ!」などと言ったりしてしまった。

そんな彼女からは「君は心から人を愛したことが無いんだ!」と茶碗を投げつけられた。

翌日、大学の教授達が集まる部屋に行き「教授、僕は、人間を愛することができません。制作している時が一番幸せなんです。この先どうやって生きていけば良いんでしょうか」と大泣きした。


今考えると可愛い奴だ。


僕は常に一人で黙々と制作するような生徒だったため、教授達は驚き慌てふためいていた。

その後、プルプルと震える僕に教授は笑いながら言った。

「杉山くんも意外に普通の男の子なんだね!マジでぶっ飛んだやつはそんなことで悩んだりしないから。まあ、そうだな、実のところ僕もまだ心から人を愛したことが無いんだよ。あ、自分の子供は別か。なんていうか、僕の言動を同じように真似るもんだから、もう一人の自分を見ているようでね。きっと、自分以外の誰かを愛するって、自分のことをちゃんと愛せた人ができることなんじゃないかな。僕もまだまだだよ」


それを聞いてスッと心が楽になった。なんだ、教授ともあろう人ができないことだ。二十歳そこらの僕にできるはずがないじゃないか、って。


それから少しして、僕は恋人に別れを告げた。

まずは創造病という悪魔と向き合って、自分を好きになろうとしたのである。


そして最近、教授の助言に加えて思ったことがある。

誰かを好きになるって、きっと相手の顔や性格、匂い、癖、言動、思想などを好きになることではなく、その相手と一緒に居る時の自分を好きになれるかどうかなんじゃないかな。

僕らは、家族、友人、先輩、上司、色んな人に異なった自分を見せる。そんな中で、自分の一番好きな自分を見せられる相手と一生を添い遂げられたら、どれだけ幸せなことか。


いつか僕の創造病を許容して、昼夜逆転しても、2日に1回しか風呂に入らなくても、パスタとレトルトカレーしか食べなくなっても「創造病の発作でてますね〜。幸せそうじゃん。これ、栄養ドリンぐ置いておくね。ひと段落したら、お風呂入って、髭剃って、外食でもしようや」なんて言ってくれる女神と出会えたらな。


そうか、こんなことを考えているから5年も恋人がいないのか。


が、創造病に頭を抱える若者よ、案ずるな。27歳、無職、恋人がいない生活でも、夢中になれることがあれば充分幸せだぞ。女神には巡り会えたらくらいの気持ちでいよう。もし出会えなければ、犬と暮らせば良いではないか。


さて、夜が明けようとしているので、作曲に戻るとする。

次に発表する新曲も最高なので楽しみにしていてくれ。来年にはアルバムも発表したいな。



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