
Photo by yuyashiokawa
彼女はとても素敵な人。
私の所属している研究室に、いつも笑顔な優しい女性の先輩がいる。
彼女は晴れの日も雨の日も、いつだって笑顔で研究室に現れるんだ。
初めて話したのは、私が研究室に入ってすぐの頃にあった、アイスブレイクだった。
他の学生と比べて学年の低い私を気遣ってくれたのか、私が話をしやすいようにいろいろな質問をしてくれた。
その時から、彼女の優しさを素敵だなと感じてた。
そんな彼女はディズニーランドでアルバイトをしている。
この話を聞いた時、思わず笑ってしまった。
だってあまりにもお似合いすぎる。
私はディズニーの世界観が大好きで、舞浜駅に降り立った瞬間から子供みたいにはしゃいでしまう人なんだけれど、
ディズニーのあの、私たちを心から幸せな気持ちにしてくれる大きな要素の一つは、キャストさんにあると思っているんだ。
笑顔が素敵で、言葉遣いが丁寧で、振る舞いが端正で、本当に細かいところまで気を配っているでしょう。
だから、彼女がディズニーキャストとして働いている様子は想像にたやすくて、
ああ、素敵だなあって感じた。
彼女のおもてなしを受けて、幸せな気持ちになっている来園者はたくさんいるだろうなあと思った。
私は彼女とは正反対で、気を許した相手以外の前では気がキツいと思われがちだし、実際私もそれでいいと思っている。
誰にでも笑顔で接することでナメられたくないという怖さが勝っているんだ。
だから真顔でいることが多いと思う。
顔に出ないし、出さない。
親しい人の前以外では、できるだけ感情を表現しないようにしている。
でも、本当はめちゃくちゃ感情に揺さぶられる人間だ。
そんな私だから、私とは正反対にいつも感情表現が豊かで、笑顔溢れる彼女を見ていて、
「この人はいつも笑顔だ。
泣いたり、落ち込むところなんて想像できないや。
誰かが言っていたように、笑顔の人には幸せが自然と寄ってくるのかな。」
なんて思っていた。
だけど先日、彼女は私にぽろっと言った。
「この間ね、辛いことが積み重なって積み重なって、
なんで私はいつもこうなんだろう、って思ってね、
家で一人で号泣したんだ」
笑いながら。あっけらかんとね。
さらに彼女はこう言った。
「私ね、昔は感情を出すことが苦手だったんだ。
両親の前で"いい子ちゃん"でいることに慣れてしまって、感情をうまく表現できなくなってしまったの。
大学に入ってから、感情を表すっていうことについて研究したいと思って、この研究室に入ったんだ。」
衝撃だった。
彼女にもそんなことがあるのか、って思った。
私はいつの間にか勝手に彼女を無敵のように考えていたけれど、
そうか、直接私の目には見えなくても、実際はいろんな感情を持っているんだな、って、改めて実感したんだ。
ただただ楽しいからいつも笑顔なわけじゃないんだな、
きっとこの笑顔の裏には、たくさんの経験があったんだな、
そしてそんな経験を踏まえて、今、この人は笑顔でいるんだな、って思った。
笑顔でいれば幸運が訪れるなんていう言葉は、私は信じていない。
笑顔でいることで、よりいっそう心をえぐられることもあると知っているから。
ヘラヘラしてその場をやり過ごすのにはもう疲れたから。
でも、彼女を見ていて、話を聞いてみて、
いつも笑顔でいる人をただ羨むのは贅沢なことだと思った。
誰にだって悩みがあって、毎日いろんな出来事があるんだ。
それだけを実感できただけでも、今の私には十分だ。
また少しだけ、心が軽くなった。
そして、やっぱり彼女は、素敵な人だ。
える