見出し画像

Rock|ミッシェル・ガン・エレファント《High Time》

1996年、19歳の夏だった。深夜の音楽番組にモッズスーツを着た四人組バンドが映っていた。

黒のテレキャスターにべっ甲のピックガードのギターを抱えた男が、E7のいわゆるジミヘンコードをかき鳴らした。ジャキジャキとしたコードカッティングから始まる8ビートのナンバー「キャンディ・ハウス」でした。

もともと同時代のヒット曲なんて興味なくて、ひたすら古いロックばっかりを聞いていた19歳の僕。

1996年のヒット曲
恋心 / 相川 七瀬
Chase the Chance / 安室 奈美恵
Don't wanna cry / 安室 奈美恵
LOVE NEVER DIES / THE ALFEE.
SPARK / THE YELLOW MONKEY.
ガッツだぜ!! / ...
Forever Love / X JAPAN

当時は、ドラマやCMのタイアップがミリオンヒットが連発し、ヒット曲をカラオケで歌うという消費のルーティーンという絶頂期を冷ややかに眺めていた僕にとって、ゴリゴリの硬派バンドの登場に興奮したものでした。

この「キャンディ・ハウス」が収録されているミッシェル・ガン・エレファントのセカンドアルバムが《High Time》です。

音楽が消費物になった90年代に現れた原理主義バンド

ミッシェル・ガン・エレファントのベストアルバムは次の3作目《Chicken Zombies》だと思っているのですが、僕にとっての思い出であり、美意識のようなものを決めてくれたという意味では19歳で出会った《High Time》なんです。

画像1

ガレージバンドとか、パブロックっぽい、ロンドンやNYのスタイリッシュなライブハウスのイメージをまとっている姿。恋愛や人生訓のようなものを排除した、ジャン・コクトーをイメージさせるチバユウスケの歌詞。アベフトシのテレキャスターの特性を存分に活かしたリフ。うねるようなウエノコウジのベースに、ロックに愛されたドラマー・クハラカズユキとすでに4人のキャラクターは完成されていて、基本的にこのスタンスのまま2003年の解散まで続いていきます。

まぁ、とにかく聞いてみてください!

前編を通してseen製テレキャスターカスタムとフェンダーの真空管アンプ「The Twin」のギターカッティングが響き続ける、ギター好きにはほんとうにたまらないアルバムです。コピーしまくったなぁ。

前述の「キャンディ・ハウス」の最後にアベがまくしたてるように弾き倒す16分の高速カッティングは、右の人差し指の爪が削れて血が出るまで練習したものです。

大衆性を拒絶して、ロックンロールに心酔して、クールで黒く、ニヒルで誰にも染められない存在。本人たちはそんなことを考えていなかったんだろうけど、僕にはそういうカッコよさに憧れて、生き方を決められた感じがしています。

20年前の僕に、かっこつけてんじゃねぇぞ

自分の感性の半分以上はミッシェル・ガン・エレファントでできていると思っている僕ですが、実は一度もライブを観たことがありません。ゆいいつ一度だけ、地元千葉のライブハウスでライブをやるときに、ちょうど自分たちのライブのチケットを受け取りにいって、かすかに漏れるリハの音を聞いたくらい。

大好きなら行けばいいんでしょうけど、どうも行けずにいたのは、好きすぎて他の好きな人たちと一緒にいたくない、というひねくれた思いがあったように思います。

ミッシェル・ガン・エレファントが好きなのに、みんなと同じようにこぶしを振り上げて、合唱したりするのが、なんだかカッコ悪いというか恥ずかしいというか、ふと俯瞰してみたときに大勢のなかの一人になるのがなんだか嫌だったんです。

それって、ミッシェル・ガン・エレファントから学んだ美意識とはまったく逆じゃねぇ、という変な自意識。なんか今思うと恥ずかしいですよね。

2003年の解散のときは、横浜アリーナでアリーナ席オールスタンディングを余裕で埋めてしまうビッグバンドになっていました。僕はそのとき社会人になって1年目。なんとなくロックから遠ざかってしまって、「そうか、ミッシェルも解散か」と、どこか他人事のように感じてもいました。

そして、大好きだった2009年に42歳で亡くなった。もう超人的なカッティングプレイを聞くことができないし、新しいリフや作品を聞くことはできないと思うと、一度でいいから体で彼のギターを感じてみたかったという後悔がやってきた。

チバもウエノもミッシェル・ガン・エレファント以降もバンドを組んでいるけど、どうも興味がわかないのは、やっぱりギターはアベなんだよなって思う。ミッシェル・ガン・エレファントのアベのギターに僕は撃ち抜かれていたわけです。

変にカッコつけないで観に行けばよかったと、20年前の僕にいってやりたい。

最後に、ミッシェル・ガン・エレファントの最高のステージ映像を。1998年のお台場で行われたフジロックの伝説的なライブです。

ーーーーー

明日の予定

明日の「Life」は、cakesクリエイターコンテスト2020で光栄にも佳作に選んでいただきましたので、その感想を。

料理人付き編集者の活動などにご賛同いただけたら、サポートいただけるとうれしいです!