いつか消えるもの
左の唇の端が切れている。
去年から治っては切れてを繰り返していたが、年末に再び現れたそれは未だにそこにいるから、もはや私の一部のようになっていた。
口角炎と言うやつらしい。
大して気にするものでもないが、夕方欠伸をするとピリッと痛みが走った。思わず「痛い!」と声が出たほどだ。
鏡を見れば、午前には無かったはずの右側の唇の端までもが赤く裂けている。
左側の口角炎は、右側にも仲間を引き連れてきたというわけだ。
それにしてもこんなにも短時間で口角炎が現れるとは、私は午前にどれだけのストレスを感じたというのだろう。
どうにかなるさと開き直っていたはずなのに、潜在意識下では現在進行形で重い荷物を抱え持っていたようだ。その結果、唇の端に見せつけるかのようにヤツは現れたのだ。分かりやすい。
私はこの日常を楽しく過ごしているつもりだったが、口角炎がストレス値を測るものだとしたなら、その楽しさは全力なのかと疑う必要がある。
今の私は湿度90パーセント以上の空気中を重苦しく舞う綿毛状態なのかもしれない。
かろうじて飛べるが遠くまで行くには難しい。
つまり私は生乾きの一張羅を着て喜んでいたのだ。
口角炎から警告を受けた私は、自分にのしかかるストレス要因を真摯に受け止めることにした。
いくら心の筋トレをしたとて持てる荷物は限られている。
時と共に捨てられる物と、そうでない物。他人に預けられる物や、ゴミ同然の物の破棄。そんなふうに荷物の整理をする必要がありそうだ。
いつか口角炎は消えてなくなる。
その頃には、爽やかに晴れ渡った気持ちの良い陽気の中で、軽やかに飛ぶ綿毛のような気分を味わうことが出来るのだろう。
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