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地元の銭湯

20年ぶりに地元の銭湯へ足を運んだ。
入り口で泳ぐ鯉、昔ながらの雰囲気漂う木造の建物。
カラカラと引き戸を開けた瞬間、
目に飛び込んできた当時と変わらない風景に、
懐かしさが込み上げてくる。

そのまま番台の前に立つおばあちゃんの後ろに
しばらく並んで待つ。
「番台さん来ないなぁ。」と
初めてきたような挙動不審な動きをしていると、
おばあちゃんが番台の中に手を伸ばし、
お札を数え出した。
おばあちゃんが番台さんだった。

おばあちゃんは私に気づかず、
お札を数え続けるので、
「すみません」と声をかけたところ、
「あぁ、いらっしゃいませ」
と可愛らしい笑顔で迎えてくれた。

入浴料金を支払い、いそいそとロッカーへ足を運ぶ。

小学生の時は、2つ年の離れた姉と、
地元の友達の3人で週3回は銭湯にきていた。
姉は結婚して九州へ、
地元の友達は毎日忙しく仕事をしている。

「ここの銭湯は全然変わらないなぁ。」
20年前より少し丸くなった身体をみながら、
空白の20年間に思いを馳せてると、
ふとある景色が目に止まった。

脱衣所から、男性側の入り口が丸見えである。
つまり、男性側の入り口から、
女性の脱衣所が丸見えになる。
それより以前に、
番台からはどちらも丸見えなのである。

小学生の時には全く気にしなかった点に
色々気づくあたり、
教養がついたのか粗探しをする人間になったのか。

昔ならではの銭湯のご愛嬌ということで、
ここは堂々と見てもらおうじゃないか。
次来る時までに、少し身体を鍛えておこう。

とにかく私は、
サ活(現代はサウナに入ることをサ活というらしい。)
がしたい。

30を越え、恐ろしいほど代謝が落ち、
全く汗をかかない生活。
クーラー直撃で汗腺は縮こまり、
激辛ラーメンを食べても暑いのは舌のみ。
パソコンとスマホだらけで、
肩こりが酷すぎて頭痛まで起こる始末。
やはり20年前とは違うのだ。

服を脱いで洗い場へ行くと、平日だからか、
銭湯には私を除いて3名しかいなかった。
1名はおそらく同年代であろう茶色の髪の女性。
あと2名は常連さんであろう、
息子が東京から長野に旅行へ行った話をしている。

「風呂コミ(風呂コミュニケーション。そんな言葉はない。)か。私もいつかあの常連さんのように、何回もここで会う人と仲良くなって、お互いの近況について話し合うようになるのかな。」
などと思いながら、ちゃっちゃと髪と身体を洗い、
少しお湯に浸かって身体を温め、
タオルを水に濡らしてサウナへ。

暑い。
サウナの温度が、かなり暑い。
5人も座れないであろう狭い空間にいるせいか、
ヒーターがものすごく近くに感じる。
加えてここ最近の運動不足とクーラー直風のおかげで、
頭は暑いのに汗が全く出ない。

5分ももたずギブアップし、水風呂へ。

・・・ぬるい。
水風呂に、肩までつかれる。
「冷たすぎる水風呂はヒートショックが起きやすい」
と聞いたことがあるので、これはこれで入りやすいのか。

ともかく、身体を慣らさねば。

2回目は10分砂時計が落ち切るまで耐えられた。
そもそも入り方の作法はあっているのか。
頭がクラクラしてきた。
暑い。
水風呂に浸かる。
ぬるい。

よくサウナ好きの人がいう『整う』感覚というのは、
どんな感じなのだろう。
こんなにクラクラするのか?

時間的にも体力的にも、チャンスはあと1回。

「これで最後だ!」
と、誰にも頼まれていない気合をもってサウナへ入り、
5分くらい経過したところ、
身体がもう暑いといってきた。

ふと、前を見ると、
さっきから何回もサウナですれ違っている
同世代くらいの女性がじっと耐えていた。
彼女もきっとサ活をされているのであろう。
私より先に入り、私より後に出る。
すごい。

もういいか、そろそろ上がろうと思ってきた時に、
別の常連さんが扉を開けた。
ジブリに出てきそうな風貌の、
少し丸くなった背中のおばあさんは、
きっと何十年もこの銭湯に通っているんだろうなと
一目でわかるほど、常連の雰囲気が漂っていた。

おばあさんは身体を洗うゴシゴシタオルを
なぜかヒーターを囲っているレンガの上に丁寧に広げ、
水がいっぱいに張った洗面器を座るところへおいた。

そして、サウナから出て行った。

「え?え??」
と、同世代の女性と何度見もした。
どちらかが話しかけたら、吹き出しそうなほど、
シュールな時間が流れた。

すぐに戻って来られるだろうと
体力の限界を超え、おばあさんの帰りを待っていたら、
おばあさんは、
サウナから一番遠くの浴槽でくつろいでいた。

ゴシゴシタオルと水いっぱい張られた洗面器。
これから何が起こるんだろう。
そうだ、脱衣所からサウナを覗こう。

頑張る同年代の女性を横目に、
さっさと退出し、水風呂へ浸かり、
脱衣所へ戻った時には、
激しいクラクラが襲ってきた。

しばらく脱衣所でぼんやりしていると、
あのおばあさんがサウナへ戻ってきた。
チャンス到来!と思い背伸びをしたが、
ちょうど死角でおばあさんの動きが見えない。
ジャンプしても全く見えない。
しかしもう一度サウナに入る時間も体力も残されていない。

「サウナおばあさんの続編は次回か・・・」
諦めて髪を乾かそうとドライヤーを探すと張り紙が。
「ドライヤー1回20円」

20円のために1,000円札を崩す忍びなさもあり、
番台のおばあちゃんは居眠りをしていて
起こすのもかわいそうなこともあり、
タオルで水気を軽く拭き、家に帰った。

その夜、頭痛で夜中に目が覚め、
朝方まで寝付けなかった。
片頭痛の人はサウナに入ると頭痛が起こるらしい。
しばらく、サウナおばあさんの続編は見れなさそうだ。




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