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テクノ新譜試聴メモ:2019-11

毎月末にまとめているチェックですが、10月は個人的に引っかかるものが少なかったためお休みしていました。その代わり、11月はけっこう収穫があった。実りの秋ですね。

まず、ケンイシイさんのメイン名義での13年ぶりのアルバム"Möbius Strip"が出た。

配信版を通して2、3周してみて、やっぱり"Flatspin"以降の20年間くらいのイシイさんの個性みたいなものが煮詰まった内容になっていると感じました。良くも悪くも頑固というか、「できる」はずのものや「求められている」はずのものに目もくれず、自分が好きな音、やりたいことだけを貫いている。ほぼシグネチャーサウンドのようになっている覚醒的デジタルシンセリードの層の厚いコードはもちろん、重心は下にありつつもなんだかちょっと間の抜けたというか、シリアスよりもファニーな感じのリズム。音選びも、DJとして機能的だったり一般に広く使われる系のものよりも、敢えて少しズレたというか、フックのあるものが多い。

わたしが好きだったかつてのケンイシイ(あるいはFlare名義)の作品とは、もうぴったりと重なることはないのが寂しくもあるんだけど、一方で、このクラスの第一線のアーティストが今さら流行におもねったり、あるいは何らかの商業的妥協を受け入れることもなく、作りたいものを作り続けていられるというのがものすごく頼もしい。彼が切り拓いてきたこととはいえ、日本でテクノする人たちにとっても夢のあることだと思う。先日のDommuneでの特集や、Clubberiaなどいくつかのインタビュー記事を読むと、イシイさんなりに25年にわたる戦いと葛藤があったのだなと感じます。

特に好きなのは"Bells Of New Life"と"Like A Star At Dawn"かな(イシイさんやっぱRising SunとかSunriserとか、夜中よりも「夜明け」のイメージあるよね)。そして配信版の14曲目にあたる"Blood Moon"がめちゃめちゃいい。低音域の粘りのあるグルーヴがいい意味であまりイシイさんっぽくなくて、どうもこの曲もDosemとの共作らしいんだけど、これはぜひDJでも機会があれば使ってみたいと思いました。あまりBPM上げずに使いたい。

それから、RegisのDownwards初期EPコンピレーションである"Necklace Of Bites"のリマスターが出てますね。

既に出ているリマスター作品集(CD3枚組)と内容も被っているし、さらにここから何か編集しているのか不明ですが一応。この中だと"Execution Ground"の謎めいたトライバル系ボイスサンプルが好きでよく使っていたので懐かしいです。

あとアルバム単位だと既に別記事で紹介したLondon Elektricityのやつとか、Jeff Millsの3枚組アーカイブとか、Ostgut Tonから出たばかりのShedのやつも気になっててまだ聴けていなかったり。

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Sleeparchive - Tower [Persistence]

ミニマル求道者Sleeparchiveの新曲。応答するシグナルを包み込むように、デトロイト風のパッドが上下するシンプルなツールトラック。Persistenceはイタリアの若手Manuel Di Martinoのレーベルらしい。ジャケかっこいいね。

Alien Rain - Voodoo [Liquid Drop Groove]

Milton Bradleyのアシッド名義Alien Rainのいい感じのやつ。これはVoodooだわ。アシッドもここまで来るとゴアトランスに近くて、別に派手なブレイクとかなくてもずーっと聴けますね。

Sylvie Maziarz - Increase (Pär Grindvik Remix) [Off Recordings]

直線的ハードミニマル。今Grindvikってこんな速くてハードなの? 昔のリマスターじゃなくて? とか思ってびっくりしちゃった。原曲からアシッド要素を完全に抜いて、色のついてない使いやすいツールにしてくれている。ブシャーというノイズが小気味よい。昔の速くて重くて硬いやつです。

Cari Lekebusch - Flaunt [Off Recordings]

久々カリレケでツボったやつ。音はいつものキレのいいファンキーな感じなんだけど、ウワモノのシーケンスが前のめりで好みだ。かっこいい。

Torn - Sin [Horo]

Samurai系列のテクノ寄りエクスペリメンタルレーベルのHoroの新作EP。夏に出たSamuraiの般若コンピでもカッコよかったTorn、ここではダークで渋いグレイエリアで、127bpmのテクノとも合う。いくつもの層になったノイズの向こうに空間が感じられて、すごくリッチで情報量の多い音像だ。リスニングとしても好きだし、このEP全曲いいけど、DJで使うならこれ。

DJ Nehpets - Workjuke (Paul Mac Remix) [Urban Audio]

タイトル通り原曲はジュークなんだけど、Paul Macがジャッキンなハネてるテクノにしてしまった。シンプルな作りで使いやすそう。雑な声ネタ使いとプニョプニョしているかわいいシンセがいかにもって感じで心を掴まれてしまう。

Stanislav Tolkachev - Double Damage [Krill Music]

トルカチェフが去年出したアルバム"It Will Be Too Late Then"がBeatportでも買えるようになった。あの手この手で脳を破壊してくる生々しい変態シンセが楽しめる。脳を破壊されよう!

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「テクノ新譜試聴メモ」は、R-9が習慣的に行っている新譜チェックのなかから、気になったトラックについて個人的な覚え書きを残しておくものです。原則としてBeatport上で当月内にEPないしアルバムとして新規にリリースされたものが対象。通常は楽曲単位での紹介、まれにEPやアルバム単位で紹介することもあります。

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