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【祝】『ニンジャスレイヤー』Twitter連載10周年に寄せて

2010年7月24日、「これまでのあらすじ」から唐突に始まった『ニンジャスレイヤー』のTwitterにおけるリアルタイム翻訳連載が10周年を迎えました。ただただ偉業だ。総ツイート数にして10万ツイート弱、膨大な量のテキストからとんでもないスケールの物語が生まれ、そして今も続いています。

『ニンジャスレイヤー』Twitter連載のすごいところ

まず、「長編小説をTwitterで連載する」という試みをやってのけた点。今でこそ事実上の情報インフラとして定着しているTwitterだけど、2007年に世界的にブレイクしてからの最初の数年間で、ここをオリジナル小説を連載する媒体に選んだのはかなり挑戦的なアイデアだなと思います。

140字に詰め込むことのできる情報量は英語より日本語のほうが多いとはいえ、1ツイートごとに段落がぶつ切りになる特徴を逆手にとって、むしろ映像表現を極限まで圧縮した文体で独特のグルーヴに変えるという手法は、「外国人から見た勘違い日本」をモチーフにしたこの作品だからできたことなのかもしれません。

謎めいたアメリカ人原作者ブラッドレー・ボンド氏とフィリップ・N・モーゼズ氏による小説『ニンジャスレイヤー』は、日本人の本兌有、杉ライカ両氏を中心とした有志「翻訳チーム」により、2010年7月からTwitterでのリアルタイム翻訳連載が始まりました。

リアルタイム翻訳連載というのはどういうことかというと、原文テキストをもとに翻訳チームが1ツイートごとに内容を区切って数分おきに投稿していく、というような作業。原作は、時系列がカットアップされた読み切りの短編エピソードの集まりであるから、1話の翻訳連載に数日~数週間程度、これを途切れることなく連綿と繰り返してきての10年というわけです。

まず、複数人による共同作業とはいえ、これを10年間ほとんど休むことなく続けているというのがヤバいんですよね。しかも、連載はほぼすべての時期において複数のエピソードが同時進行してきたので、とんでもなく膨大な話数に及んでいる。公開順でいうと、例えば有志Wikiの下記のページに一覧としてまとまっています。

『ニンジャスレイヤー』はアニメ化もされた第1部が2011年、第2部キョート編が2012年、第3部が2016年に連載完結し、現在は第4部にあたる「エイジ・オブ・マッポーカリプス(AoM)」編が連載中です。このうち第3部までは主要なエピソードが角川書店から原作小説の「物理書籍版」として全21巻からなる単行本として出ていて、さらに現在コミカライズ版の第2部が秋田書店の「チャンピオンRED」で月刊連載中です。

凄いなと思うのは、まあ、10年続けていることももちろんそうなんだけど、マルノウチ・スゴイタカイビルで妻子を奪われたフジキド・ケンジのニンジャスレイヤーとしての物語を、第3部までのいわゆる「トリロジー」で、きれいに終わらせているところだと思うのです。一度完結しているのだ。そのうえで、また続いている…。

物語を終わらせることって、始めることや続けることよりはるかに難しいと思うし、それが例えば雑誌媒体なら不人気による連載終了とかそういった消極的理由によってではなく、Twitter連載という、言ってみれば原作者の意図通り自由にやれる枠組みのなかで、最後まで描き切ったところが素晴らしいと思うんですよね。

わたしと『ニンジャスレイヤー』の10年

わたしが『ニンジャスレイヤー』に出会ったのは2013年2月のこと。その経緯はおおむね当時ブログ記事(『ニンジャスレイヤー』にハマる | EPX studio blog)にまとめたとおりで、物理書籍でいうと第3巻が出たころでした。先にTwitter経由で作品を知っていた友人に、半ば押しつけられるような勢いで薦められて読んだ1、2巻にまんまとハマり、そこからまだ書籍が出ていない分をスマートフォンアプリで読み進めていって、およそ2か月で第2部を読破。ほどなく連載中の最新話に追いつき、それから丸7年間、ずっとハマり続けています。

当時の自分を振り返ると、仕事で独立してなんとか踏ん張っていた一方、2年ほどおつきあいしていた人と別れて、精神的に参っていた部分もあったのかもしれません。趣味の音楽活動は続けていたのでなんとかアウトプットしようと模索していた時期でもありましたが、インプット…すなわち心の底から熱狂できるエンタメとの出会いは、今思えば必然でした。

何が自分のなかでそんなに引っかかったのか。わたしの場合、Twitter連載の始めにして原点の「ゼロ・トレラント・サンスイ」では、さほど良さが分からなくて(文体と世界観への困惑のほうが大きかったのかもしれない)、確実にこれは何かがヤバいぞと気づいたのは「キルゾーン・スモトリ」、キャラクターとストーリーテリングの魔法に完全に囚われたのは「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」を読んでからでした。

Twitter連載版の原作小説は、公式翻訳チームの手によってnote上で無料ですべて読むことができる「アーカイブ」として順次まとめられている最中で、現在は第3部の序盤までのエピソードがあらかた収録されています。
ニンジャスレイヤー3部作アーカイブ【総合目次】|ダイハードテイルズ

『ニンジャスレイヤー』は二次創作やあらゆる創造的なファン活動を積極的に奨励している作品で、Twitter上ではハッシュタグ#ウキヨエで翻訳連載とともにリアルタイムでファンによる挿絵が投稿されるという文化を生み出しました。ゆえにこそファンコミュニティ(読者のことを「ニンジャヘッズ」と呼ぶ)も根強く、アニメ化などのオフィシャルなメディア展開に先んじて、早い時期からオンリー即売会や自主的なファンイベントが行われてきました。

わたしも2014年のオンリー即売会『ニンジャ万博』への参加を皮切りに、十数年ぶりのコミケ参加、クラブイベントでのDJとしての参加など、いろいろと活動してきました。それもこれもニンジャのおかげ。

自分にとっての二次創作の動機のひとつは、第3部に登場する「ユンコ・スズキ」というキャラクターでした。彼女は生前の自我をバイオニューロンチップに移植されたオイランドロイド(SF作品全般におけるいわゆる"アンドロイド"のネオサイタマでのありかた)の少女なのですが、その自我の拠り所がサイバーゴス Cybergoth という生き方であったがゆえに、人間らしさとロボットらしさがいびつにパッチワーク接続された存在として生まれました。これがもう、めちゃめちゃに魅力的な設定じゃないですか。

詳しくは原作小説「レプリカ・ミッシング・リンク」を読んでね

わたしは、それまで同人漫画作家としては、創作系即売会「コミティア」で毎回長くて16ページくらいの作品を、それも今思えばひどい惰性で作り続けていたのですが、ニンジャ二次創作においてこのユンコ・スズキを主人公にした作品を猛烈に描いてみたくなって、いきなり40ページの漫画本を作ってオンリー即売会に単身参加しました。しかも、ファン活動として二次創作をしたくなったのってこれが完全に初めてで、明らかになにかそうしたくなる熱がこの作品のなかにあったのですね。

以降もずっと、継続して『ニンジャスレイヤー』を題材に二次創作活動を続けています。一部はnoteでも読めるマガジンとして下記にまとめました。

今が一番おもしろい『ニンジャスレイヤー』

そんな本作、今はどうなっているかというと、2050年ごろのカナダ・本能寺を舞台にニンジャスレイヤーと明智光秀が一騎打ちしています。

『ニンジャスレイヤー』がヤバいところは、10年におよぶTwitter連載のなかで「今が一番おもしろい」を常に更新し続けているんですよね。少なくとも、リアルタイム連載を追っている間はそう思わせ続けてくれる。初めて読んで「マルノウチ・スゴイタカイビルってなんだよ…」と感じたピュアな驚きと困惑を、手をかえ品をかえ新鮮な楽しみとして提供してくれるし、そのアイデアの独創性において原作者チームへの絶対的な信頼感がある。

そのうえで、極めてハイテンションで手に汗握る、一挙手一投足の肉体表現の再現に忠実な高解像度アクション、映画的手法を意識した映像的文章表現、深い読み解きや分析に耐えうる強度のある多層的な物語構造と、その魅力は語り尽くせません。

しかし、ファンとして本当に…心から歯がゆいのは、この作品の魅力がまだ一般的には全然理解されていないと感じること! 加えて、わたし自身が友人に薦められて読者になったのにもかかわらず、いまだ周りの友人にまったく『ニンジャスレイヤー』を読んでもらえていないことです。わたしは常々、創作でミームを残せないなら、せめて優れた作品のミームの繋ぎ手でありたいと考えており、その点からもまだまだ力不足だと感じる。マジでめちゃくちゃおもしろいから読んでほしい。

今なら前述の通り、第3部の途中まではnoteで読めるし、単行本も出ているし、スマホアプリNJRecallsもあるし、Twitter @njslyrでは最新話が連載中だし、そもそもどこから読んでもおもしろい読み切り連作エピソードの構造になっているから、どこからでも読んでください。

最後になりましたが、『ニンジャスレイヤー』Twitter翻訳連載10周年、本当におめでとうございます! 10年はもう立派な歴史であって、歴史とはつまり、作品がたくさんの読者の人生の一部になったということでもある。ボンド=サン、モーゼズ=サン、日々を戦う力をありがとう。

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