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【音楽】Shobaleader One "Elektrac"

Twitterでベティ=サンが、最近出たShobaleader One(ショバリーダー・ワン)のアルバムのことを書いておられて、そういえば前にSquarepusherがそういうプロジェクトを始めるだか始めただかを聞いたなあと思い出しました。で、聴いてみてびっくり!なんと20年以上前の自分の曲を演奏している。しかも、多重録音で作られたいわゆる「打ち込み」を前提とした複雑なトラックを、4人編成のバンド形態で完コピしているんですね。

どういうことかというと、このプロジェクトは、Squarepusherのデビュー以来のオリジナル曲を、生バンドで再演するという試みなのでした。これはおもしろいってことで、YouTubeの音源をあれこれ聴いてみたうえで、件のアルバムも買いました。今回のアルバム"Elektrac"は、スタジオ・レコーディングではなく、彼らのライブ音源を編集したものです。

メンバーは全員覆面をしている

Squarepusherとは

Squarepusher(スクエアプッシャー)は、UKのベーシストトム・ジェンキンソンのソロ・プロジェクト。90年代から現在に至るまで、ドラムンベース、ノイズ、ジャズ、ファンクをミックスしたような独自のスタイルの音楽を作り続けているアーティストです。自身が弾く超絶技巧のベースと、偏執的に細かく刻んだブレイクビーツが特徴で、デビュー当時は彼の才能を見出したAphex Twinと並んで語られることも多かった。

私も96年の最初のアルバム"Feed Me Weird Things"は衝撃的で、そのあとの"Big Loada"、"Hard Normal Daddy"は高校時代に聴き倒しました。非常に多作なこともあって、以降のアルバムは飛ばし飛ばしで、全然すべてを追えているわけではなかったのですが、EPでいくつか買ったり、最近のアルバムとかもちょこっと聴いて、同じことを突き詰めていてすごいなあくらいに思っていました。表現したい世界がまったくブレていない。

Squarepusherを人間が演奏する!

Squarepusherの曲をバンドで演奏するなんて、考えてもみなかった。ソロのライブの場合、彼はコンピューターやミキサーを前にしてベースを弾き、時々操作しながらバックトラックを流すというスタイルをとっていました。

これを完全に人間だけで演奏するというのがどれだけハチャメチャなことかというのは、同じ曲のオリジナル版(Squarepusherによる打ち込みソロ)と今回のShobaleader Oneによるバンド演奏版とを聴き比べていただければよく分かると思います。

オリジナル版(1997年)
途中からブレイクビーツが暴れ出し手をつけられなくなる

バンド演奏版(2017年)
人力でやろうとするドラムがすごい(すごい)

確かに人間が不可能なほとんどドリル音のような超高速ロールまでは再現できないんだけど、ここまでニュアンスを保ったまま演奏しているのすごいですよね。ヘンに演奏しやすくアレンジしたり、逆に主張の強いインプロヴィゼーションを足したりすることなく、原曲の熱量をそのまま持ってきている。個性を殺してでも原曲をまんまやるという、異常なまでの原作リスペクトを感じます(実際全員が記号の入ったLED覆面をしており、Squarepusher以外のメンバーはアーティスト/プレイヤーとしての本名・素顔を公開していない)。

もうひとつ比較するなら、代表曲"Squarepusher Theme"。

オリジナル版(1996年)
21歳の時点で世界観が完成されている

バンド演奏版(2016年)
そのまんま!20年経ってこんなことになるとは

考えてみたらこれって「弾いてみた」みたいなことなんですけど、本作の意義深いところは、作者本人が、後世においても人力で再演可能なリファレンスを音源として残してくれた点だと思うのです。

やっぱりライブで聴きたい!

実は、彼らいま来日ツアー中で、昨日12日がまさに東京公演だったのでした。私は知るのが遅すぎて、チケットが手に入らなかった…。Twitterで検索すると、行った方の感想がたくさん出てきます。いいなあ!国内アーティストサイトには早速ライブレポートが上がっています。

http://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Squarepusher/BRC-540/

"Elektrac"をスタジオ録音にしなかったのは、このバンドがライブ=生であることの重要性を暗に示しているようにも思えます。このアルバムの録音も悪くはないのですが、ミックスがわりとおとなしめの印象で、迫力や荒々しさが物足りない。YouTubeに非公式でブート的に上がっている別のフルのライブ映像は、偏りはあるものの、より生々しいのでおすすめです。これでかなりライブの雰囲気は分かる。

1時間半のフルバージョン(演奏は6分過ぎから)

8月のSONICMANIAで再来日するようなので、なんとか行けないか計画中です。

アメコミ風のスリーブも楽しいアルバム"Elektrac"

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