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【映画】TENET テネット

立川シネマシティで公開4日目のクリストファー・ノーラン監督の映画『TENET テネット』を観てきました。これは感想文が難しい…! なにしろ、わたしが内容を全然理解できていないからです。例えるなら、2時間半かけて問題文を読み上げるクイズを出されて、「はいこれ、答えてみて」って言われて、一晩経ってもまだ解けていない感じ。

TENET、なんもわからん

正直、もうちょっと分かるかと思っていたんです。ノーラン映画って、途中まではいつも敢えて視聴者の理解を妨げるように作っている節があって、最後のほうで畳みかけるように「分かった気にさせてくれる」ものだと思っていたんですが、それが今回はエンドロールに到達した時点でも、体感で半分も分からなかった…。最後にダメ押しのようにして字幕翻訳クレジットに「アンゼたかし」って出てきて、翻訳が良くなかったから分からなかった可能性すらも潰されてしまう!

おもしろいのが、筋立てが分からないわけではないのです。言ってしまえば悪者から世界を救うために戦う話であるので、誰が味方で誰が敵で、こういうことをしようとしているからそれを防ぐためにこういうことをして、結果こうなったみたいなことは、100パー分かる。オチもある。しかも視聴覚体験がリッチで、完全にアクション映画の世界に引きずり込んでくれるので、物足りないみたいなことはまったくないのです。最後まで観て映画体験として満足しており、いい作品に相応のお金を払ったことに納得しているから、まるきりキツネにつままれたような感じ。

今回、先行して作品を観た友達のツイートとかを見ていて「ノーラン映画の中では分かりやすい」「いや難しすぎて全然分からん」みたいに反応が両極端で、一体どっちなのかと思っていました。これは観れば納得、理解度のレイヤーが(今回も)多層構造になっているのでした。

インターステラー』にも、「本棚のあっちとこっちが愛で繋がる話」みたいな最も浅い表層レイヤーがあって、その下にストーリーライン時系列と因果関係の中層レイヤーがあり、さらにその下に物理法則などの科学的ギミックの深層レイヤーがある。今回も同じ。ただし本作は表層と中層の乖離がめちゃくちゃ激しく、どのシーンとどのシーンが繋がっていて、因果関係がどうなっているというタイムラインが初見では異様に掴みにくいのです。

例によって、既に本作の解説記事みたいなのがたくさん出回っていて、noteにも複数のタイムラインを子細に解説した丁寧な記事があるんだけど、びっくりするのは、読んでもあんまりよく分からないってこと。いつだかの「モスバーガーのきれいな食いかたスレ」を思い出しておかしくなってしまった。文章で読んでも目が滑ってしまって、まったく要領を得ないのだ…。

それでもまあ、いくつかの点で「そうだったの!?」みたいなところがあって、言われてみればなるほどねとなりました。

視聴覚体験としての価値

それにしても、笑ってしまうほどスケールの大きい実写シチュエーションと、見たこともないVFXの連続で、謎解きは脇に置いても、映画館での視聴覚体験としての価値の大きさを感じました。今回まずツカミとなる冒頭のアクションシーケンスがめちゃくちゃ熱く、いきなりぶち上がる。

ジャンボジェット機のシーンは映像に負けず劣らず音楽の演出が良くて、印象的なもつれるような三連符の不穏なフレーズと、順行キャラと逆行キャラが入り乱れる格闘…こんなシーンに物理法則に即したSEをつけるの、どんな音響監督にとっても超難題と思うんだけど、見事に正解を出していた。

そしてクライマックスの戦闘シーン! 戦場でドンパチやる映画は数あれど、あんなにヘンテコな映像は観たことも頭の中で想像したことすらもなく、ほとんど魔法にかけられているように感じた。あの場面はイマジネーションとテクノロジーを駆使したノーランの象徴的アートそのものだ。わたしは『インセプション』を観てからというもの、ノーラン映画には「見たことない映像を見せてほしい」という期待が多分にあり、今回もそれにばっちり応えてくれる。

映画のレベルデザイン

『TENET』、何周か観たらもっと分かってくるのかもしれない。2周めのほうがおもしろいという話もある。でも、複数回見ないと分からない、パンフなり解説記事を読まないと分からない映画って、作品としてどうなのか、という点は残る。設計が不十分なのでは?

今回のような時間の双方向性を使ったギミックって、映画とかよりもむしろインタラクティブなビデオゲームの専売特許だったわけで、時間を止めたり巻き戻したり、あるいは行ったり来たりループしたりできる一定の「物理的ルール」に基づく作品というのが、ゲームにはたくさんありますよね。だからか今作も、わたしにはゲームのように感じた面があります。

で、ゲームであるならばレベルデザインという概念があって、プレイヤーが自然な学習曲線に沿ってアクションを身につけ、謎解きについての気づきを得られるような設計を開発者が綿密にやるわけですが、『TENET』にもしかるべきレベルデザインが敷かれていたらなと思ってしまう。

けれど、例えばふつうの映画ならどこでもやっている「日付、場所」のテロップすらも出さないのは、たぶん敢えてそうしていないんですよね。そうすれば分かりやすくなるはずなのにそうしないのは、もうそういう風に作っているからなのだ。

これ、今までのノーラン作品のなかでも最も上級者編であることは疑いがなく、そのうえで、午後ローとかで平日の昼間に雑に流れていてもおかしくない「悪者から世界を救うSFアクション映画」にもなっている。2時間半あるクイズ…わたしにはまだ答えが出ていません。

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