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明日、いよいよ『鶴かもしれない2020』の幕が上がる

ついに明日から『鶴かもしれない2020』が始まる。

期間にして、たった5日。でもこのたった5日のために、小沢道成は持てる時間をすべて注いできた。その成果が、この5日間で証明される。

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1月7日に劇場入り。そして8日にはスタッフワークに関する入念な確認が行われた。僕が劇場を訪ねたのは8日の午後。駅前劇場の扉を開けると、真っ暗な客席で今まさに小沢がスタッフと照明の確認をしていた。

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最初に驚いたのが、舞台美術だった。もうすでに稽古場で何度も見ているはずなのに、駅前劇場の空間に据えられたそれは、まったく違う何かのように見えた。

稽古場で見るよりずっと大きく、存在感がある。ひし形状の舞台は、客席正面に向けてせり出すようなかたちになっている。そのせいか、いつもの駅前劇場よりずっと舞台と客席の距離も近い。

そして上手(かみて※客席から見て右側)に座るのか、下手(しもて※客席から見て左側)に座るのかで、舞台の見え方もまったく異なる。小沢道成が模型を傍らに置いて、「こういうことがやりたい」と目を爛々とさせながら語っていた構想が、確かにそこにあった。

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その日は、主に照明に関する細かい確認が行われていた。

小沢自身は今日は演出家の役割に専念し、客席から舞台をチェックする。舞台上で代役を務めるのは、「虚構の劇団」の仲間である小野川晶だ。照明スタッフは、南香織(LICHT-ER)。初演から一貫して『鶴かもしれない』の照明は、彼女が担当してきた。その他にも、『みんなの宅配便』、『夢ぞろぞろ』など、何度も作品をつくってきた仲だ。信頼があるのだろう。短い手直しだけで、どんどん場面が進んでいく。

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それにしても、舞台芸術というのは繊細だ。たとえば、上から明かりが一筋差し込むにしても、それが上手からなのか下手からなのかで印象が異なる。照明が切り替わるタイミングも、台詞きっかけなのか、あるいはそのあとの動作きっかけなのかでも、余韻が違う。小沢は、そういった細かいニュアンスを整えるようなオーダーを、南に出していく。

そして、それに南も応えながら、オリジナルのアイデアを乗せる。

たとえば、次から次に着物がはだけ落ちるシーン。あちこちに脱ぎ散らかされた着物に、南はわずかに光を当てた。それは、なくても差し障りはないものだ。けれど、そこに光が当たることで、かすかに意味合いが生まれる。そこに、観客は物語を見る。それが、プロの企みというものだ。

僕が、どうしようもなく心を奪われた舞台は、こんなふうにつくられていったんだと、その繊細な作業に頭が下がる想いだった。

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音楽の岡田太郎も、音響を確認しながら、気になることに関して音響スタッフの堀江潤と相談し合う。ちょっと曲のリバーブが残りすぎているかもしれない。ここのフレーズはもう少し音を大きくしてほしい。プロたちの、こだわりが、ひとつ、またひとつと積み重なって、完成形が近づいていく。

恐らくこの舞台における最大の見せ場となるであろう、女の“あるショッキングな場面”については、照明も実に華やかだ。ムービングライトがうなるように回転し、まるで駅前劇場が狂騒のダンスフロアのようになる。音響も一段とボリュームが上がる。騒がしくなればなるほど、忍び寄る不穏さに心をかきむしられる。

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実は、本作にはまだ明かされていない”大仕掛け”が隠されている。本番まで楽しみにしてほしい演出なので、ここで詳細は明かさない。でもこの日行われた場当たりを見て、小沢道成が当初頭に思い描いていた効果はきちんと果たされているように感じた。

小沢道成は、面白いことややっていないことをやるのが大好きだ。新しいアイデアを思いつくたびに、誰よりも小沢道成本人がいちばんワクワクしている。自分が観たいものをカタチにする場が、EPOCH MAN。かつて僕に向けてそう語った彼の宣言が、目の前に立ち上がっていくようだった。

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今この記事を書き終える頃には、代役リハーサルを終え、小沢道成は家路に着く準備をしている頃だろうか。その胸にあるのは満足か、不安か。聞いてみたい気もするけれど、あえて聞かないままにしておきたい。だって、その答えは明日舞台の上で見られるのだから。

たったひとりで、駅前劇場で、芝居を打つ。

同世代の小劇場俳優が聞いたら思わず怖気づくような彼の無謀な挑戦を、どうかたくさんの人に見てほしい。

演劇が好きな人も、演劇を知らない人も。

きっといつか2020年1月に小沢道成の『鶴かもしれない2020』を観たことが自慢になる日が来るはずだ。

小沢道成とはつまり、そういう可能性を持った俳優なのだ。

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(本記事内の写真は、2019年12月27日に行われた通し稽古のものです)

EPOCH MAN『鶴かもしれない2020』

2020年1月9日 ~ 2020年1月13日

下北沢・駅前劇場

■小沢道成Twitter:@MichinariOzawa

■EPOCH MANホームページ:http://epochman.com/index.html/

<文責>
横川良明(@fudge_2002

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