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チケットは、ただの紙切れじゃない。

『鶴かもしれない2020』の初日までいよいよあと1ヶ月となった。

たったひとりで800人を集める。その無謀なチャレンジに向けて、俳優・小沢道成は今この瞬間も、たったひとりで、コツコツと作品づくりに取り組んでいる。

このnoteでは、ここから1ヶ月かけて、その足跡を追いかけていく。

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そもそもいち観客の視点で見ると、舞台制作の裏側は謎だらけだ。私たちが目にするのは、本番期間中のステージ上の華やかな姿だけ。その裏側で、具体的にどんなことをしているかを知ることはほとんどない。稽古に入ってからの工程はまだある程度想像できるけど、それより前の準備期間となれば尚のこと不明だ。

そこでまずは少し時間を遡って、この1ヶ月前に至るまでの間に、小沢道成が何をしていたのか、そこから見える彼の人となりを浮き彫りにしていきたい。

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11月も半ばを過ぎたその日、近況報告を兼ねて、小沢道成の自宅を訪ねた。玄関から廊下を進んで部屋に入ると、奥にベランダへと続く大きなガラス戸があって、そこから昼の光が降り注いでいる。レースのカーテンが秋の風に小さくそよぐ。まるで日光浴をするみたいに、窓に向かって大きなデスクが設えられている。ここが、小沢道成の作業スペースだ。天板には、MacBookとちょっとレトロなデスクライト。そして、今回の『鶴かもしれない2020』のための舞台模型などが置かれている。

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まず聞いたのは、ここまでの間に、彼が何をしていたのかということ。

『夢ぞろぞろ』の千秋楽が8月12日。その後、小沢道成は別冊「根本宗子」第7号『墓場、女子高生』に向け、9月から稽古に入った。つまり、『鶴かもしれない2020』の製作にあてられたのは、『夢ぞろぞろ』明けの8月後半から、『墓場、女子高生』明けの10月下旬以降。その間に、まず小沢は公演準備に向けて以下のTO DOをクリアしていった。

■チケット制作・入稿

■先行予約の対応・チケット発送

■舞台模型制作

■媒体向けのリリース作成

■ホームページの更新

この他にも『夢ぞろぞろ』DVD発売に向けた映像確認やトレーラーの編集、同じく『夢ぞろぞろ』台本販売に向けた校正作業なども加わる。繰り返しになるけど、本来どれも俳優のやることではない。しかし、こうした細々とした「事務作業」と分類されるものを、小沢道成はすべてひとりで行っていく。今日は、主にEPOCH MANのチケットに関する話をしたい。

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小沢道成は、こだわりの人だ。舞台美術で用いる素材ひとつとっても、常にアイデアがあって、その素材を選んだ理由を尋ねると、彼の工夫と遊び心が口からとめどなく溢れ出てくる。そして、そのこだわりは何も舞台の上だけに限らない。むしろ劇場に辿り着くまでのプロセスも含めて、すべてがEPOCH MANの世界。そこには、自分のために足を運んでくれるすべての人を少しでもワクワクさせたいという彼らしいホスピタリティが込められている。

たとえばチケット1枚にしてもそうだ。切り捨てた言い方をしてしまえば、チケットはあくまで劇場に入るための通行手形でしかない。だから、その役目さえ果たせれば別にデザインがよかろうが悪かろうが何の意味もないし、本番が終わってしまえばただの紙切れ。そこにコストをかけるのは生産的ではない、と言えるかもしれない。

けれど、小沢道成の考えはそうではない。ファンの方であればよく知るところではあるけれど、EPOCH MANのチケットはいつもオシャレだ。公演が終わっても、大切にしまっておきたくなるセンスの良さがある。

そう指摘すると、「そう思ってくださったならすごくうれしい」と小沢道成は顔を綻ばせる。今回の『鶴かもしれない2020』でも、EPOCH MANのホームページを経由して予約してくれたお客様に対してオリジナルチケットを用意した。そこで使われている写真は、このオリジナルチケットでしか見られない1点モノだ。手にした人だけが楽しめる特別な1枚になっている。

彼がチケットのデザインにこだわるのは、チケットこそが公演と観客をつなぐ入り口であり、あなたが劇場で過ごす時間を楽しいものにしますよ、というお客様と交わす最初の約束だから。

「僕、チケットが手元にあるのがすごく好きなんです」

そう小沢道成はキラキラと目を輝かせる。

「自分が舞台を観に行くときは、必ず早めにチケットを買っておいて、チケットホルダーの中にしまっておくんです。チケットがそこにあるだけで、“行く楽しみ”を感じられるというか。本番が始まる何ヶ月も前からそうやってワクワクした気持ちになれるのが好きなんです」

小沢道成の魅力は、こういうところだと思う。彼は、とても魅力的な演劇人だ。そして同時に、とても魅力的な観客でもある。忙しい中でも合間を縫って気になる舞台に足を運び、客電が落ちる瞬間のときめきをいそいそと楽しむ。劇場に通う喜びを彼自身がよく知っているからこそ、自分の舞台を観に来てくれる観客の気持ちも自然と理解できるし想像できるのだ。

どんなことをしたら、お客様に楽しんでもらえるだろう。彼はいつもそのことを考えている。だから、チケット1枚にも手を抜かない。本番に行くまでの間も、本番が終わったあとも、舞台のことを思い出して、温かな気持ちになってもらえたら。そんな彼の願いを形にしたのが、オリジナルチケットだ。

役を演じるだけでなく、脚本・演出を考えるだけでなく、美術をつくるだけでなく。小沢道成はこうした地道なことからひとつひとつ本番に向けて準備を進めていた。日の当たらないところで、誰にも気づかれないようなさり気なさで、粛々と。

そんな彼の想いが実を結んだのか、先日一般発売の始まった『鶴かもしれない2020』は幸先の良いスタートを切った。すでに追加公演も決まっている(さすがにその決断は早くない?と僕は驚いたのだけど笑)。

だけど、彼が本当に願っていることは、いかにチケットを早く売りさばけるか、ではない。願わくば、自らが観客のときにするように、お客様が手元に届いたチケットを大切にしまいながら、本番までの数ヶ月、“行く楽しみ”を味わってくれること。その幸せなイメージが、ひとり煩雑な「事務作業」に明け暮れる彼のエナジードリンクになっている。

チケットは、ただの紙切れだ。本番の日付が過ぎたら、一銭の価値も持たない。それでも、舞台を愛する人にとって、チケットは特別だ。チケットは「この日この場所で一緒に楽しい時間を過ごしましょう」という未来への約束であり、「この日この場所で一緒に楽しい時間を過ごした」という過去への証明でもあるのだ。

▲EPOCH MAN『鶴かもしれない2020』オリジナルチケットは上記の予約フォームより受付中。

EPOCH MAN『鶴かもしれない2020』

2020年1月 9日 ~ 2020年1月13日

下北沢・駅前劇場

■小沢道成Twitter:@MichinariOzawa

■EPOCH MANホームページ:http://epochman.com/index.html/

<文責>
横川良明(@fudge_2002

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