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俳優・小沢道成、ペンキとボンドにまみれる

6月27日。ホームセンターでの買い出しから10日後、僕は小沢道成の稽古場を訪れた。

稽古場の扉を開けると、床には一面ブルーシート。さらに壁際にはまるでどこかの作業場のように工具が山積みになっていた。

それもそのはず。この日は、『夢ぞろぞろ』に向けた美術製作の日。前回買い揃えた木材やパネルを組み立て、舞台となる売店が稽古場ではつくられていた。

すでにフォルムそのものは出来上がっていた。

中を覗くと、こんな感じ。走り書きのメモが、いかにもセットの裏側という雰囲気でちょっとテンションが上がる。

もちろん手を動かしているのは、専任の美術スタッフ、というわけではない。小沢道成が額に汗を流しつつ、熱心に作業に取り組んでいた。

今はちょうど外壁に木板を敷きつめていくところ。

裏に木工用ボンドを塗って。

丁寧に貼り付けていく。

繰り返しになるけれど、こうした製作作業は決して俳優の仕事ではない。美術スタッフが自らの作業場で製作し、それを劇場に搬入するのが一般的だ。

でもEPOCH MANの美術は、基本的に小沢道成の手づくり。稽古期間の初期を小沢道成は製作作業にあて、自分でデザインした美術を自分でつくる。

よく見ると、指がペンキで汚れている。その汚れは、この立方体の売店を、彼が自分の手でつくり上げた証拠だ。

作業中の横顔は、真剣そのもの。黙々と、作業に集中している。


EPOCH MANは、小沢道成の脳内を具現化するためのプロジェクトだ。けれど、すべてを彼ひとりでやってのけているわけではない。自分の力が及ばないところは、信頼できる仲間に遠慮なく助けを求める。そういう素直さも小沢道成の美徳のひとつだ。

心強いバックアップをしてくれるのは、舞台監督の大刀佑介氏。小沢は以前、美術の話をしていたとき、自分でプランを練るからこそ「舞台監督はアイデアマンの方がいい」と語っていた。自分が出したプランに対して、さらに「こうすると面白くない?」と可能性を広げてくれるような、そんな相手と一緒に仕事をするのが、小沢道成の理想だ。

その言葉を証明するように、作業中、ふたりの間で何度も意見が飛び交う。技術的な知識の少ない小沢に対し、大刀が専門家の立場からアドバイスをしている様子だった。

さらにもうひとり、サポートで入ってくれた柚子ちゃんも熱心に作業中。

本来、稽古場というのは、俳優の台詞と演出家のオーダーが飛び交っているのが常だ。でも、今日のEPOCH MANの稽古場は誰も台詞なんて言わない。その代わり、聞こえてくるのはドリルが木板を削る音。舞い上がるのは、俳優の汗ではなくて、粉のような木くず。

そんな光景を眺めながら、改めておかしなことをする人だなあと思った。美術にこだわりがあるのは素晴らしい。でもわざわざ自分で手を動かさなくたっていいのに、と声をかけたくなる。

でも、きっと小沢道成にとって、演劇をつくる作業は、ただホン(脚本)を書いて、台詞を覚えて、板の上で演じるだけではないのだろう。

こんなふうに指を真っ黒にして装置をつくることも、彼にとっては演劇なのだ。劇作家が戯曲を書き下ろすように、俳優が台詞を喋るように、小沢道成はホンも書いて、美術のデザインもして、自分でつくって、そしてそこでお芝居をする。その一連すべてが、彼にとってかけがえのない貴重なクリエイティブの時間なのだ。

ちなみに、この立方体の売店は何やら大仕掛けもあるよう。お手製の売店が舞台上でどんな役割を果たすのかは、劇場で確かめてみてほしい。

■小沢道成 Twitter:@MichinariOzawa
■EPOCH MAN ホームページ:http://epochman.com/index.html/
■『夢ぞろぞろ』チケット予約はコチラから

<文責>
横川良明(@fudge_2002

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俳優・小沢道成が、自ら主宰するEPOCH MAN 新春ひとり芝居「鶴かもしれない2020」を成功させるまでの166日間を、ライター・横川良明の視点で綴った演劇ドキュメンタリー。
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