第1章 浅草 朝から夜中まで(4)
鳩に豆を売るお婆さん 十一時 仁王門に入ったら、左手を見上げよ。軍艦のような鳩舎。ゴロ、ゴロ、ゴロ。地にはノドを鳴らして、鳩、鳩、鳩。
豆を売るお婆さんが六人。皺だらけの顔が渋紙のように光っている。でも、頭に手拭をのせているから恰好はとれている。硬ばった笑いで、坊ちゃん、嬢ちゃん。
「鳩に豆をおやり下さい。」
小さな可愛いお客さんは、彼の足を突っつきそうにして寄って来る鳩に、夢中になって豆をバラ撒く。撒く。撒く。するとお婆さんは、すかさずその手に、次から次へと、豆の皿を渡