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眠っていた街「夕張」:夕張フィールドワーク報告2「朝五時の悩みごと」

さて、夕張フィールドワーク報告第二弾です。

■鉱員住宅

この清水沢コミュニティゲート事務局は、鉱員住宅の一角にあります。とても雰囲気のあるいい場所です。田島は思わずカメラ(iPad)を構えます。

佐藤さん「気をつけて!住んでいる人がいます。あくまで景色として、行員住宅の全体像を撮影して下さい」

そのとおり。夕張は生きていて、実際に人々が生活しています。社会学の分野では『調査されるという迷惑』[1]という本がありますが、写真を向け、こうやってインターネット上に公開するだけで侵害されるプライバシーがあります。私たちは気をつけなければならない。カメラ/メディア/インスタ映えする夕張ならなおさら、です。

佐藤さんから許可出た場所で撮影し(良い感じです…!)、私達は次の拠点に向かいます。

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時計を見るとお昼時。私達もお腹が空いてきました。佐藤さんが「観光客が来る所と、近いところと、住民が集まるところ、どれが良い?」というので、当然「住民が集まるところで!」と答えます。

清水沢から車で少し走って、旧夕張小学校を活用した「ゆうばり共生型ファーム」です。こちらで昼食です。

■ゆうばり共生型ファーム(旧夕張小学校)

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夕張市の廃校は、もちろん少なくはないのですが、特徴的なのが(使うことができる)全ての廃校を利活用している、ということ。2018年8月3日〜7日には、旧緑陽中学校で「学交祭」というイベントも行われます(ぼくも、8月5日・6日のイベント「夕張破綻学」に申し込んでいます。またレポートします)。

廃校は日本全国でどんどん増えており、平成28年5月1日現在で6811校あると言われています[2]。眠っている資産をどう活かすか、という先行事例としても夕張は注目できそうです。

■清水沢アートパワープラント

さてフィールドワーク再開。私たちは清水沢アートパワープラントに向かいます。ここは元々、北炭(北海道炭礦汽船株式会社)が所有していた「清水沢火力発電所」でした。現在は、東亜建材(工業株式会社)が所有の元、業廃棄物中間処理場として使われており、一般社団法人清水沢プロジェクトの案内によって有料・ガイド付きにて一般公開が行われています。

敷地内に入ると、清水沢アートパワープラントが姿を現します。

青空に佇む姿はとても力強く、美しい。

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そして中に入るとこの迫力のある美しき廃墟感!

そこで展示した作家が「場所に勝てない…」と嘆くのも分かります。

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しかし、清水沢アートパワープラントも老朽化が進んでいます。現在も、東亜建材が維持・補修をしているものの、大正時代の建物。貴重な文化資産とは言え、費用もかさむはずです。この建物を今後どうしていくか、議論できる場を作っていきたいと佐藤さんは仰っていました。

清水沢アートパワープラントを後にして、しばらく車に。

■三菱大夕張鉄道

車を止め、佐藤さんから「私達の先輩です」と紹介されたのは「三菱大夕張鉄道保存会」です。夕張市東部には、北炭ではなく三菱の炭鉱があり、三菱大夕張鉄道が走っていました。その後、1987年に廃線になりましたが、その車両は「炭鉱の歴史資産」として重要。そこで、車両を維持することはもちろん、育てることを目的として1999年に保存会は設立され、以降20年近く活動してきたのでした。

こちらも車両・客室ともに美しい!

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特にこの客室を見ていると、昔の夕張というのは本当に豊かだったのだなあ、と実感します。三菱大夕張鉄道保存会は20年近い活動の中で、保存に関する技術や知識が蓄積されているそうです。今後も廃線が増え、それに伴い保存会のような団体も増えると思いますが、三菱大夕張鉄道の知見が共有できる良い方法はないかと、少し考えます。

■まとめ:朝五時の悩みごと

さて、今回とりあげた4つの夕張の資産(行員住宅・廃校・清水沢アートパワープラント・三菱大夕張鉄道)は、いずれも「眠っている(た)資産」に対して、異なる態度を取っていると言えます。行員住宅は「起こすべきでない」(理由は住民がいるから)、廃校は「起こしているところ(現在進行系)」・清水沢アートパワープラントは「これからも起こすかどうか?(疑問系)」・三菱大夕張鉄道は「ずっと起こしていた(し、これからも起こし続ける)(現在完了系)」と言えると思います。なんだか、間違って早く起きすぎてしまった私みたいです。

どれが正しいか、というのは資産によるもので、唯一定められるものではないはず(極端ですが「夕張を延命させるべきではない」という意見も聞きます)。ただ、ぼくの考えを言えば、(地域住民かどうかに限らず)その資産に魅力を見出し、覚悟を持って取り組む個人(や集団)の判断に依るべき、だと考えます。

もちろんそれはその地域に住まわれる方をないがしろにしろ、ということではありません。ただ、人口減少が進んだ地域に、地域資産の魅力を見出す人、動ける人が地域内にいるとは限りません。地域内に全責任を負わせてしまうことで、救えたかもしれない資産というのも今後は多く出てくると思います。だからこそ、私は地域の資産は地域に閉じるのではなく、関係する人と繋いでいかなければいけないと考えます。

[1]宮本常一、安渓遊地(2008)『調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本』みずのわ出版

[2]文部科学省(2017)「廃校施設活用状況実態調査の結果について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/01/1381024.htm

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