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【7月7本目】「あいつ、実は無能だったんだな」と言われないために

寂寥・せきりょう、ひっそりとして寂しいさま

クルマの助手席に座り、何もない景色を見ていた。
青い空、乾いた土地。何もないとは何事だと、ところどころに生える草が主張するのだけれど、流れる速度に負けてしまう存在感が、茫漠たる風景に感傷を与えていた。
薄い青と、くすんだ茶色。
それは寂寥といっていいだろう。

「ちょっと止めて」

僕の声に反応し、君はクルマをゆっくり停止させた。
おかしい。
“そこ”には、昨日まで大きな建物があった。
体育館にも似たパチンコホール。
お店の名前は覚えていないけど、体育館のような、台数は500台くらいだろうか、ともかく“そこ”へ、僕は昨日、確かに立ち寄ったのだ。

混雑とまでは言えない、やや古びたパチンコと、こんなメーカーあったのかというスロットが、店内へ差し込む夏の外光に照らされて、誇らしげに輝いていた。

なのに、無い。
店ごと、きれいさっぱり。
閉店したのか、それとも一日で解体したか。

「本当にあったの?」

運転席の君は言った。
あったよ。
僕は返す。
過去形でしか語れないけれど、“そこ”には確かにあったのだ。

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・・・・・・という夢を見た

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