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ヒトはコンピューターを尊敬できるのか。

 囲碁史上伝説的な名人:イ・セドルとディープマインド社が開発したアルファ碁の対局は世界的な注目を集めた。結論から言えばアルファ碁は5局のうち4局に勝った。コンピューターが最強の棋士を破ったことで、人間の囲碁に対する関心が薄れるか、囲碁をやっても面白くなくなるのではと当初は思われていた。しかし振り返ってみれば、NFLスーパーボールを見るよりも多くの人が対局をネットを通じて観戦、基盤の売り上げは急増し、MITは囲碁部の部員が倍増したと発表した。

▼初戦からの3連敗、その対局後の記者会見でイ・セドルは、人類全体を代表する重荷が肩にのしかかっているかのような様子で、世界の観衆に謝罪した。「人間は、木と石だけで展開されたものだけでなく、心理的な対局も受け入れる必要がある」と彼は述べた。そして悲しげに呟く。「私は圧力を跳ね返せなかった」。5局うち3敗、これは人間の勝利がなくなったことを意味した。史上最強の男は、ヒトという種の代表としてコンピューターに挑み、そして破れた。

▼4局目に集まったメディアは極端に減ったという。しょうがないことではある。イ・セドルを見事な最高水準であっさり破ったアルファ碁は、最後の2局も楽々と勝つと思われた。そして4局目の前半は、それ以外の可能性を全く窺わせないものだった。しかしそこでイ・セドルは過激で予想外のことをやった。盤のど真ん中で“割り込み”をやったのだ。アルファ碁は(世界中で観戦していた何百万人もの棋士も同じように)、どう対応していいか全くわからなかった。いくつかまずい手を刺した後で投了。コメンテーターたちによれば、イ・セドルは名盤を創り出した。まったく独自の妙手とも今では評価されている。

▼最初にも書いたがアルファ碁は5局のうち4局に勝った。コンピューターが勝つことで囲碁界の発展を、もしくは存在そのものが危機に陥るのではと、当初は懸念されていた。

しかし、もたらされた現実は違った。アルファ碁は、囲碁の面白さを減らすどころか、むしろこのゲームとそのプレイヤーや学者たちに、爆発的な創造性とエネルギーを注入したように思える。アルファ碁との対局を通してイ・セドルは、囲碁に対する意欲がさらに高まったと述べた。最後の会見では笑顔さえあった。3局目後の会見とはまったく違う晴れ晴れとした表情が、嘘ではなく正直な想いだとうかがえる。

▼近年、AIの発展が人間への脅威と騒がれている。囲碁というフィールドで人間は負けた。しかし微かな希望を感じたのは私だけではないはず。何事にもリスクはつきまとい、注視される。しかしその中でプラスの反応に焦点を当て、丁寧に数えていくことも忘れたくない。

国際囲碁連盟はアルファ碁に、名誉九段(囲碁棋士にとって最高の地位)を与えた。

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